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アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン。

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角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

アメリカ国境に近いメキシコのバハ・カリフォルニア州ティファナ市。

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、先日第1回大会が開催された、ユニークなハーフマラソンの大会レポートをお届けします。舞台は、アメリカとメキシコの国境地帯。二つの国をまたいで開催されるレースとは、果たしてどんなものだったのでしょうか。

9月15日に行われた「The Binational Race San Diego Tijuana」というレースに参加してきました。二つの国、という意味のイベント名にある通り、アメリカ合衆国とメキシコを隔てる国境を渡るレースです。私が住むロサンゼルス近郊からは高速道路を南へ向かって2時間ほどの距離です。

レース公式ウェブサイト:https://binationalrace.com/

このレースは、国境を挟んで隣り合うアメリカ側のサンディエゴ市とメキシコ側のティファナ市の友好交流を目的としたもので、今回が記念すべき第1回目の開催です。

アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

レース前日にゼッケン受け取り会場で披露されたメキシコ舞踏。

10kmとハーフマラソンの部があり、私はハーフマラソンを走りました。アメリカ側からスタートし、コースのちょうど中間地点くらいで国境を越え、メキシコ側でゴールする片道コースです。

帰りはバスで国境まで送迎してくれます。アメリカ再入国のためには入国審査を通らないといけませんので、ランナーたちはバックパックやポーチにパスポートを携行して走ることになります。

世界でもっとも貧富の差が大きい国境線。

アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

アメリカとメキシコの国旗が掲揚されたスタート地点。

レースの前半については、とくに語るべきものはありません。スタート地点は国境ゲートに隣接するショッピングセンター内に設けられているのですが、ハーフマラソンのコースは距離を稼ぐためか、スタートしてすぐに国境から背を向け、その辺りをぐるりと一周りしてから同じ場所に戻ってくるからです。

アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

「ここから先はメキシコ」の標識。

ウォームアップと呼ぶにはいささか長い、10kmほど走ってから見えてきた国境ゲートをくぐると、いよいよこのレースの本番が始まった気分になりました。

アメリカとメキシコを隔てる国境線は、2国間の経済格差が世界でもっとも大きい国境線だと言われています。アメリカは言わずと知れた超大国であるのに対し、その一方でメキシコは発展途上国だとされているからです。

ソングライターの浜田省吾さんが、この国境を渡ったときの驚きと戸惑いを綴った文章を読んだ記憶があります。片側5車線もある立派なサンディエゴ・フリーウェイが、メキシコ側に入った途端にガタガタの悪路とスラムへと雰囲気が一変するというようなことが書かれていました。たしか名盤『J. BOY』のLPレコード(!)に付属していた小冊子だったと思うのですが、残念ながら私の手元には残っていません。お持ちの方はチェックしてみてください。

かの名曲が発表されたのは1980年代。当時もロサンゼルス近郊に住んでいた高校生の私は、自分こそがJ. BOYだと思い込み、わざわざティファナまでやってきました。

当時のティファナは、ちょっと怪しげな土産物屋が並ぶ町でした。今から思えば100%ニセモノだったに違いない革ジャンや、アメリカでは手に入りにくかったバタフライ・ナイフなんかを買って帰りました。ため息が出るほどのアホですが、ティーンエイジャーとは元来そんなものです。というわけで、今回は約40年振りの再訪ということになります。

アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

国境ゲートのアメリカ側。

それほどまでに長い年月が過ぎても、この国境線を巡る状況にはあまり大きな変化はありません。少なくとも私の目にはそう見えました。当時も現在も、ゲートのアメリカ側はガラガラで、メキシコ側はカオスのような渋滞です。

アメリカからメキシコへの出国は基本的にフリーパスで、パスポートのチェックすらありません。私たちランナーも足を止めることなく、国境線を通過しました。しかし、メキシコからアメリカへ入る際には厳しい入国審査があります。

「The Great Wall(大いなる壁)」に沿った坂道。

メキシコ側に入ったコースは、混雑したティファナ市街地には入らず、国境線に沿ってほぼ一直線で海岸へと向かいます。進行方向の右側にはずっと高さ3メートルほどのフェンスが続いていました。

トランプ前米国大統領が不法移民の取り締まり強化を強く訴え、アメリカとメキシコの長大な国境線に物理的な壁を築くことを提唱してきたことはご存知の通り。まるで万里の長城のようです。

アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

コース後半。右側フェンスの向こうはアメリカ。

もっとも、この周辺のフェンスはトランプ氏が政界に登場するよりずっと以前から存在していたものです。トランプ政権下の「The Great Wall(大いなる壁)」政策は、既存フェンスの改修や警備強化を行ったに過ぎません。

ジョン・レノンが『イマジン』で、国境のない世界を歌ってから半世紀以上が過ぎても、私たち人類はあまり進歩していないようです。この原稿を書いている時点では、次期米国大統領選挙の行方は分かっていませんが、莫大な国家予算はこの馬鹿げたフェンスを撤去する方向に使ってほしい。そんなことを考えていました。

アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

コース地図と高低差チャート。

終盤に長い登り坂が出てくる以外、ハーフマラソンとしてはとくに難コースというわけではありません。色々な思いがあったとしても、ランナーとしてはいつも通りに一歩一歩足を前へと運ぶだけです。この日は終日曇っていて、青い空と海を見られなかったことは残念でした。

スタートから中間地点までは英語を話していた給水ボランティアが、国境を越えた途端にスペイン語オンリーになりました。私も紙コップを受け取りながら、「グラシアス!」と叫びます。通じていたかどうかは分かりません。海岸に面したゴール広場にはメキシコ料理の屋台が並び、ライブ演奏で盛り上がっていました。

アメリカとメキシコの国境を走って渡るハーフマラソン

ゴール広場。

帰りの送迎バスは国境を越えることができません。ランナーたちは手前でバスから下ろされ、おのおの国籍に応じたアメリカ入国審査を受けなくてはならないからです。

第1回目ということもあって、運営にはいくつかの不手際がありました。それでも、主催者側の気持ちはひしひしと伝わってくる、とても良いレースでした。来年以降も継続する予定のようです。

ハードボイルド小説の傑作、風間一輝著『男たちは北へ』にアーネスト・ヘミングウェイのこんな言葉が紹介されています。

「地図上の国境はただの線だが、それを自力で越えたことのある者だけが、その線の太さを知っている」

ヘミングウェイのどの作品に出てくる言葉なのかは知りません。本当にヘミングウェイの言葉なのかどうかも知りません。それでも、この国境線の太さを自分の足で確かめたいと思う人は、来年のレース参加を検討してみてはいかがでしょうか。

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