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COLUMN

フォアフット? リアフット? 着地パターンの“思い込み”が故障リスクを増やす。

2025.06.22
GO KAKUTANI

フォアフット? リアフット? 着地パターンの“思い込み”が故障リスクを増やす

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、ランナーであれば誰もが気になるランニングフォームについて、故障リスクとの関係をアメリカの研究を交えてご紹介します。自身のフォームを正しく認識することが、やっぱりとても大切です。

ランニングはシンプルで、誰でもできる運動のように一般的には思われていますが、実は走るという動作はきわめて複雑なメカニズムです。これだけ科学が急激な進化を遂げていても、現時点では「完全に人間のように走るAIロボット」は存在しません。

それでも私たちは無意識に走ることができますし、普段はそのことをあまり不思議だとは思いません。専門のランナーや指導者でなければ、「どうやって」走っているのだろうと意識することもあまりないでしょう。

ただ、足首や膝などの故障を経験したランナーは、自分のランニングフォームを気にかけるようになります。「足に優しい」シューズを選びたくもなります。そうしたときに、多くのランナーが陥りがちな、ある思い込みによって故障のリスクが増える傾向があることを、フロリダ大学の研究(*1)が明らかにしました。6年間、700名以上のランナーを追跡調査したものです。

ランナーのほとんどが自分のフォームを誤解している。

この研究で明らかになった衝撃的な事実のひとつが、「ランナーの約6割が自分のランニングフォームを間違って認識していた」という点です。調査対象のランナーは、自分が「フォアフット(つま先側)着地」だと思っていても、実際のビデオ分析では「リアフット(かかと)着地」だったというケースが非常に多く報告されました。

具体的には、調査前に「自分はリアフット着地だ」と認識していたランナーは、全体の24.6%しかいませんでしたが、現実には81%がリアフット着地でした。自分のランニングフォームを正しく認識することはかなりの難事なようです。

他人事のように述べてきましたが、実は私も自分がフォアフット着地をしていると思い込み、実際はかかとから着地するタイプのランナーでした。そのことを私は、他人が撮影してくれた写真によって初めて知りました。もう10年くらい前のことになりますが、クロスフィットのワークアウトで走っているところを、ジムのトレーナーが「かっこいいよ~」なんておだてながら撮ってくれた写真が下のものです。

フォアフット? リアフット? 着地パターンの“思い込み”が故障リスクを増やす

約10年前の筆者。

一目見て愕然としました。前足の膝が伸び切り、かかとが最初に地面に着いています。いかにも膝に悪そうです。体の重心より前に着地する、いわゆるオーバーストライド気味でもあり、ランニングエコノミーを悪くしてしまっていたかもしれませんし、ふくらはぎやハムストリングスに過大な負荷をかけてしまっていたかもしれません。

それでも、このフォームのままで、それまでにフルマラソンを何回か完走はしていましたし、大きな故障をしたこともありませんでした。だからこそ、自分は良いフォームで走っているのだと勝手に思い込んでいたのですが、突きつけられた現実は意外でした。

それ以来、ランニングフォームを意識するようになり、自分ではかなり改善したつもりではいるのですが、実はそれも思い込みでないことを願います。ランニングフォームにも可視化が重要なようです。本当は専門家にフォーム診断をしてもらうべきなのでしょうね。

シューズの履き替えと故障の関連性-最大3倍のリスク増も。

フォアフット? リアフット? 着地パターンの“思い込み”が故障リスクを増やす

レース前にランニングフォームを確認する強豪クロスカントリー走部のランナーたち。

着地パターンの誤認は、シューズのタイプや性能とも関連があります。特にクッション性が高くヒールの厚いシューズ、いわゆる厚底シューズを履いているときに、誤認が発生しやすくなると研究者は指摘しています。厚いソールが着地時の地面からのフィードバック(感覚)を吸収してしまい、どこで接地しているのかが分かりにくくなるからのようです。ただの勘違いで済めばよいのですが、それが原因で間違ったフォームに気がつかないのであれば(以前の私のように)、大いに問題があります。

過保護に守られると、対外感覚が鈍る。シューズとランナーに関しても、同じことが言えるのかもしれません。裸足ランや薄底シューズの効用を見直すべきなのでしょうか。

フォアフット? リアフット? 着地パターンの“思い込み”が故障リスクを増やす

裸足で走ると、嫌でも着地場所を意識せざるを得なくなる。

さらに、上の研究結果から注目するべきは、シューズの履き替え頻度と故障の発生率との相関性です。研究者らは、ランナーがシューズを履き替える頻度を調査したところ、シューズを頻繁に替えているランナーは、替えていない人に比べて故障の発生率が約3倍高くなることを発見しました。

特に「ドロップ(かかととつま先の高低差)」や「クッション性」が異なるシューズを短期間で履き替えることで、筋肉や腱に異なる負荷がかかります。そのせいでフォームが安定しないまま練習を重ねることで、故障を引き起こしやすくなるのではないかと研究者らは推測しています。

タイムを短縮したいと願うランナーにとって、ランニングシューズは唯一の武器とも言えます。マラソンや駅伝などで多くの競技ランナーが軒並み高機能シューズを履いているところを見ると、ついつい目新しいモデルや不必要に高価な商品を買い求めたくなります。市民ランナーの端くれとして、その気持ちはよく分かります。

しかし、新しいシューズに履き替える前に、そのシューズが本当に自分のフォームや経験に適しているかを慎重に検討することをお勧めします。自戒を込めて。

参考文献

*1. Accuracy of self-reported foot strike pattern detection among endurance runners. https://www.frontiersin.org/journals/sports-and-active-living/articles/10.3389/fspor.2024.1491486/full

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に電子書籍『ランニングと科学を斜め読みする: 走りながら学ぶ 学びながら走る』がある。https://www.amazon.co.jp/dp/B08Y7XMD9B 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
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