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COLUMN

連載企画 「Unbreaking PB -失敗レースから学ぶ-」 VOL.8

2022.08.18
Shun Sato

それまで順調にPBを更新してきた坪井さん。調子もよい中で臨んだサブ3を目指したレースで、PBを更新したにも拘らず本人にとっては失敗。そこには何があったのか? 参考にしてみてはいかがだろうか。

坪井光穂(市民ランナー) 「自分流のレースを貫く」 


レース:Beyond2021(2021年12月29日)
タイム:3時間00分18秒(目標タイム:2時間59分(サブ3))
自己ベスト:3時間00分18秒(Beyond2021/2021年12月29日)

■Before the start (スタート前)
Beyond2021は、2019年の埼玉国際マラソン以来、3年ぶりのマラソンでした。埼玉で3時間13分の自己ベストを出した後、コロナ禍の影響でレースがなくなり、私自身のモチベーションも下がってしまって、なかなかマラソンに気持ちが向きませんでした。でも、昨年の夏くらいに練習会で「サブ3、いけるんじゃない?」と友人に言われ、その気になって、レースの3ヵ月前から練習を始めました。私はマラソンのキツイ練習を半年間や1年間続けるというのができなくて、フルは1年に1回と決めています。その3ヵ月間は、トレイルやトライアスロンをせず、マラソンだけに集中して取り組みました。さいわい週1回のポイント練習は1度も落とすことなく、やり切ることができましたし、月間走行距離も普段は150キロくらいですが、この時は330キロになりました。レース前は、一緒に練習してくれた友人からも「サブ3、1発で決められるよ!」と言われて、私自身もその気になって「できない理由がない。いけるんじゃないか。」と自信に満ちていました(笑)。

■Start line(スタート)
レース当日は、いい感じで気温が低く、風はあったのですが、めちゃくちゃ強いという感じではなく、コンディションとしては良かったです。気持ち的にも「今日はイケる!」と思って、楽しみでした。レース前、路面が硬いという話が耳に入ってきたのですが、自動車のテストコースなのでそのくらいは仕方ないと気にすることなく、レースに集中していました。

■スタート~20km
レースは、サブ3のグループが4つに分かれていて、前にペーサーが二人、最後列に一人がついていました。私がいたグループは、20名くらい。女性は私だけで、スタートしてからは集団の真ん中にいて、皆さんを風除けにして走っていました。ただ、レースがペーサーについていく感じで進むので、どうしてもペーサーから離れちゃいけないみたいな気持ちになるのです。給水時に離れてペースが上下するのもいやだったので、給水を取り損ねたり、ゆっくり給水を摂れなかったり、そういう小さなストレスがありました。それでも走りに関しては順調で、「このままいけばサブ3いける、いけるよ。」と思っていました。

■20km~25km
25キロになる時、足が攣る気配を感じました。それまで3回フルマラソンを走っていたのですが、こんなに早い段階で、足が攣る感覚になったことはなかったので、「あれ? おかしいな?」と、かなり不安になりましたね。コムレケアを飲んで、マグネシウムも摂ったのですけど、どうしても違和感が取れなくて・・・。これ以上、攣る感覚が広がらなければいいなと思いながら走っていました。

■30km~35km
30キロを越えて、最初に左足が攣りました。えっ、もうこんなところで攣るの? っていう感じでしたね。自分のペースも少し落ちて来て、気が付けば集団の一番うしろにいたのです。サブ3を達成するには、集団から遅れることができないので、「やばい、このままだと離れそう!」と思ってペースを上げようとしたのですが、まったく上がらず・・・。足の不安もあったので、精神的にちょっと追い込まれ始めていました。

■35km~40km
ここからは、もう地獄でしたね。両足のハムストリング、ふくはらぎ、足裏まで腰から下半身の全てが攣っていました。それまでトライアスロンのレースでバイクからランになった時、内側広筋やハムストリングが軽く攣ることはあったのですけど、ここまで攣ることは経験がなかったです。特に足底の攣りがヒドくて、着地するだけで痛いので、腕を必死に振って足を前に押し出す感じで走っていました。1度止まったら、そのまま絶対に走れなくなると思ったので、なんとか動かしていましたが、サブ3の集団から離れてしまい、メンタル的にもキツかったですね。

■40km~Finish
ラスト2キロ手前までの地点では、サブ3行けるかどうかギリギリだったのです。でも、残り2キロの最初の1キロが4分50秒くらいまで落ちてしまって・・・。もうダメだ、間に合わないと分かったのですが、絶対にゴールだけはしようと思っていました。そこまでしてもゴールしたいと思うのは、たぶんゴールへの執着心が強いからだと思います。自分で言うのも変ですけど、レース中のメンタルだけはめちゃ強くて、これまでどんなレースもDNFしたことがありませんでした。ウルトラマラソンに初めて挑戦した時も最初の40キロで腸脛靭帯に痛みが出て、その後の60キロはロキソニン(痛め止め)を10錠くらいで飲んでゴールしたり・・・。体には良くないのですが、絶対にゴールしたいという気持ちが強くて、この時も同じ気持ちでした。サブ3できないから歩こうという気持ちはなくて、むしろ何がなんでも止まらない、とにかくゴールするというメンタルだけで走っていました。

■Goal(ゴール)
ゴール手前で、ホワイトアウトしました。視界がぼんやりと霞んで、みんなの応援の声とかも聞こえなくなっていて・・・。ゴールして、そのまま倒れて、20分くらいそこから動けなくなりました。自分が何分でゴールしたのか、まったく分かりませんでしたね。「大丈夫?」って、みんなが声をかけてくれたのですが、反応できなかったです。吐き気があり、腹筋も攣って、救護の人にさすってもらっていたのですが、そのまま病院に搬送されそうになったのです。私は、レース後の打ち上げだけはどうしても出たかったので、「大丈夫です!」と言い続けていました(笑)。でも、最後まで走った代償が大きかったですね。それから半年間、足を痛めてしまい、走れなくなりました。

■Beyond2021(2021年12月29日)

0~10㎞  42:26
10~20㎞  42:12
20~30㎞  42:02
30~40㎞  43:07
40~FINISH 10:34

教訓(1)「自分流のレースを貫く」
集団やペースを過剰に意識しないということです。それまでのマラソンは、ペーサーをつけたり、誰かについていくことをしたことがなかったですし、大きな集団走も経験がありませんでした。レースで自分と同じペースで走りやすい人を見つけて、その人についていくのがいいと分かっているのですが、そういう人を無理に見つけながら走ると疲れるので、だったら一人で走ろうと思っていましたし、それでうまくいっていました。実際、過去3回のレースは3時間43分、3時間37分、3時間13分と毎回PBを更新することができました。いずれも単独走で、目標タイムはあるものの、上下幅を見越した上で応援してくれる仲間のところにフラフラ寄りながら気持ちに余裕を持って走っていたのです。その余裕がタイムにも繋がったのかなと思います。今回は集団から絶対に遅れちゃいけないというプレッシャーを、知らず知らずのうちに自分に掛け過ぎていたと思うのです。そのため給水を焦ったり、取り損なったりして、うまく水分補給ができず、最終的に脱水症状を起こしてしまいました。絶対にサブ3を達成するというメンタルは必要ですけど、あまり集団にとらわれ過ぎず、自分のペースを大事にした方がいいと思いましたね。

教訓(2)「レースコースを知る」
Beyondをはじめ、周回コースのレースってけっこうありますよね。そういうレースで応援してくれる人がいる時は、給水ボトルをもってもらうといいですね。Beyondの時、すごくそう思いました。給水を意識して、摂れないと気持ち的にも肉体的にも影響が出てきます。友人に頼んでボトルを持ってもらい、応援場所でもらって飲んで、捨てて、拾ってもらって、またもらうみたいにするとストレスなく、しっかりと給水できると思うのです。実際にBeyondでは、事前にコース特性を知り、そうしているランナーがいました。レースの最後、目が霞んだり、耳が聞こえなくなったのですが、それは脱水の症状と言われたので、給水をしっかりと摂るための工夫としてレースコースを事前に理解することはすごく大事だなと思いましたね。


〈今後の目標〉
3時間00分18秒を出したBeyond2021の後は、ほぼサブ3ですし、けっこう燃え尽きた感があったのですが、今は次のシーズンで再度、サブ3にチャレンジしようと思っています。最近、シューズの影響もあってか、女性のサブ3ランナーが増えてきたので、ここで私もしっかり切っておきたいなと思ったからです。ターゲットレースは、来年1月末の勝田マラソンを予定しています。10月まではトライアスロンやトレイルのレースに出て、11月から本格的にマラソンの練習を始める予定です。まずは11月に上尾ハーフを走り、今年のBeyond2022は30キロを目途にペーサーが出来ればと思っています。それを終えた後に勝田マラソンという流れでサブ3をクリアしたいですね。サブ3を達成した後は、トライアスロンのロング・ディスタンスに出てみたいなと思っています。オリンピック・ディスタンスとミドルディスタンスは経験したのですが、ロングはまだチャレンジしたことがないので。マラソンは、サブ3の先をいくと相当ハードルが高くなる感じですよね。サブエガを目指すとなると、今よりいろんなものを犠牲にしないとできない気がするので、サブ3を達成した後に、その先に行きたいと思うか、これで十分だと思えるのか、その時の気持ちに素直に従ってみようかなと思っています。

連載企画 「Unbreaking PB -失敗レースから学ぶ-」 VOL.7

Shun Sato
佐藤 俊
北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て93年にフリーランスに転向。現在はサッカーを中心に陸上(駅伝)、卓球など様々なスポーツや伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。著書に「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「駅伝王者青学 光と影」(主婦と生活社)など多数。
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