• instagram
  • youtube
  • rss
スタイリッシュに速く走りたい、すべてのランナーへ
  • instagram
  • youtube
  • rss
COLUMN

サンタフェで実験。高地で走るとランナーの体には何が起こるか?

2025.04.01
GO KAKUTANI

サンタフェで実験。高地で走るとランナーの体には何が起こるか?

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、アメリカ・ニューメキシコ州の州都、サンタフェの街を走ります。実は、アメリカ50州でもっとも標高が高い位置にある州都というサンタフェ。果たして高地でのランニングが体に及ぼす影響とはどんなものだったのか。自らの体で実験します。

ニューメキシコ州の州都サンタフェに行ってきました。1610年に制定。かつてのスペイン領、メキシコ領を経て、アメリカに現存するなかで2番目に古い都市です。

スペイン語のサンタ(Santa)は英語のSaint、フェ(Fe)は英語のFaith。つまり、サンタフェは「聖なる信仰」を意味する地名で呼ばれる宗教都市です。住民の過半数をカソリック信徒が占めます。日本では宮沢りえの写真集で有名になってしまいましたが、バブルの頃の日本人は、少しばかり他国の文化に配慮が足りなかったかなと思わなくもありません。

それはさておき、今回の本題は別にあります。例によって私の旅は走ることとセットなのですが、サンタフェで待ち構えていたランナーにとっての難関について語りたいと思います。それは高度です。標高約 2,194mのサンタフェは、アメリカ50州の中でもっとも標高が高い位置にある州都でもあるのです。

ちなみに、有森裕子さんや高橋尚子さんらが高地合宿をしたことで有名なコロラド州ボルダーの標高が約 1,655m、大迫傑選手が拠点を置くアリゾナ州フラッグスタッフでも標高約2,130m。サンタフェはそれよりも高いのです。少し離れたニューメキシコ州最大の都市アルバカーキ(標高約1,619 m)でも、日本の実業団駅伝チームが合宿を行うと聞いたことがあります。

心臓がすぐにハーハーゼーゼーするわけ。

サンタフェで実験。高地で走るとランナーの体には何が起こるか?

Cathedral Basilica of St. Francis of Assisi(聖フランシス大聖堂)。

街の仕組みだけを見れば、サンタフェは旅ランをするために理想的な都市です。サンタフェ・プラザという正方形の広場が街の中心にあり、その周囲を碁盤の目のように道路が走っています。私のような方向音痴でも道に迷う心配はありません。人も車も少なく、歩道はきちんと整備されているうえ、次々と現れる歴史的建造物が目を楽しませてくれます。と言うよりは、街全体が中世にタイムスリップしたかのような建物で統一されているのです。

さて問題の空気の薄さですが、サンタフェに到着した日の午後に街を歩き始めたときにはさほど感じませんでした。しかし、翌朝にジョグを始めるとすぐに息が上がりました。

高地トレーニングがランナーのパフォーマンスを向上させる理屈は以下の通りです。

1)高地では酸素が薄いので 、ランナーの体内では血中の酸素濃度が低下する。
2)すると体は環境に適応して、体内の赤血球数やヘモグロビン濃度が増加する。
3)その結果として心肺能力が飛躍的に向上する。

この3段論法に間違いはないと思いますし、さまざまな研究でその効果は証明済みです。数多くのアスリートたちが高地トレーニングに取り組んでいることは周知の事実です。私の場合は血液検査をするわけにはいきませんが、高地ランのきつさは分かりやすい形で現れました。

ペースはゆっくりジョグなのに、その何倍ものスピードで走っているかのように呼吸が苦しくなるのです。気のせいだよ、なんて舐めて走り続けていると、だんだんとエライことになってきました。心臓はドキドキと音を上げているようですし、脚まで重くなってきました。まるでマラソンの後半みたいです。景色を眺めるどころではありません。

当たり前と言えば当たり前の話で、なにしろ富士山5合目と同じくらいの高さなのです。登山なら始まったばかりとはいえ、そこから駆け出す人はあまりいません。

結局、私は遅いジョグか速い散歩か分からないくらいのペースで進むことにしましたが、もしこれが強化合宿だったらそうはいかないでしょう。

旅ランで高地トレーニングはできるか。

サンタフェで実験。高地で走るとランナーの体には何が起こるか?

サンタフェ市街の建物はアドべ(Adobe、日干しレンガ)で統一されている。

私の安静時心拍数は普段なら50~53 BPMくらいです。一般的には健康な人における正常値は60~100 BPMだと言われていますので、それよりは低くなりますが、長距離ランナーとしては普通です。

ところが、サンタフェに滞在した3泊4日の旅行中、着用したガーミンのデータによると、私の安静時心拍数は普段より約30%高い65~72 BPMで推移し、帰宅すると元の数値に戻りました。

高地では、安静にしていても、ただそこにいるだけで普段より心拍数が高くなっているわけです。運動をすると、その心拍数がさらにどんどん上がっていくことを、身をもって知ることになります。私の体感では、同じペース、同じ距離のジョグが、高地では普段の5割増しくらいにきつくなります。

もちろん、ただきついというだけではトレーニングとしての意味はありません。本来の目的である心肺能力の向上という効果を得るためには、高地で最低3週間以上のトレーニングが必要だとされています。さらに言えば、高地トレーニングの心肺能力への効果は、下山後数日から1週間でピークに達し、その後は元に戻ってしまうそうです。

今回の旅以外にも、私は最長1週間までは高地で走った経験が何回かあります。ご存じの通り、大した効果は出ていません。高地トレーニングには長い期間が必要だということを図らずも証明してしまっています。

ならば本番レースの前に高地で長期滞在をすればよいのでしょうが、職業的な競技ランナーではない一般人にとっては、あまり現実的な話ではありません。ヒマで物好きだ、という点では人後に落ちない自覚がある私ですらそう思います。

トレーニング効果があってもなくても、サンタフェは美しい街でした。文字通り、隅から隅まで、地面を這って、見て回りました。たとえ速く走れなくても、健康で丈夫な脚があることは本当に幸せなことだと思います。年間を通して訪れることができますが、春の4~5月か秋の9~11月がベストシーズンだということです。

サンタフェで実験。高地で走るとランナーの体には何が起こるか?

薄く雪化粧したサンタフェ・プラザ(12月10日撮影)。

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に電子書籍『ランニングと科学を斜め読みする: 走りながら学ぶ 学びながら走る』がある。https://www.amazon.co.jp/dp/B08Y7XMD9B 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
RECOMMEND
CATEGORIES