2度目の海外マラソンにオススメのLA近郊「サーフシティー・マラソン」
アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、まだまだ日本人参加者も少なく、海外マラソンに慣れていない方にもオススメのハンティントン・ビーチのレース「サーフシティー・マラソン」をご紹介。サイズ感も気候も丁度良く、カリフォルニアらしさ満載の穴場レース。次回は来年2月開催です。
2025年2月1日に、カリフォルニア州ハンティントン・ビーチで開催されるマラソンのイベント「サーフシティー・マラソン」(フル、ハーフ、5km、砂浜1マイルの部あり)を紹介します。
ハンティントン・ビーチは、ロサンゼルス国際空港から南に向かい、車で40分ほどの距離にある海沿いの町です。広い砂浜と高いパームツリーが揺れるビーチのいかにも南カリフォルニアらしい風景で知られています。「Surf City USA」という別名称を商標登録していて、大会名はそれにちなみます。
読者のみなさんには関係のないことですが、私はこのハンティントン・ビーチで高校時代を過ごしました。現在の住まいも遠くなく、このサーフシティー・マラソンは地元ランナーのひとりとして過去に7回参加しています。
しかしながら、このマラソンをオススメするのには地元贔屓以外にも理由があります。
大き過ぎず、小さ過ぎず、暑過ぎず、寒過ぎでもない。
主催者側の発表によると、2024年のサーフシティー・マラソンの参加者は18,000人を超えたとのこと。しかし、フルマラソンの完走者は1,500人前後ということですので、参加者の大部分はハーフマラソンや5kmの部にエントリーしているようです。
実際にフルマラソンの部に参加してみると、大きなレースで見られるようなスタート付近の押し合いへし合いはほとんどありません。最前列のエリートランナーから最後部まで、せいぜい100mくらいではないでしょうか。人を掻き分けて走るほど混んではいなく、そうかと言って寂しくもない、丁度良いくらいのサイズです。
コースの大半は、海岸線に沿った平坦な舗装路です。前半に少しだけ町中の公園を走る部分があり、そこで多少の上り下りはあります。スピードを出して自己最速タイムを狙うにも適していますが、海を眺めながらのんびり走ることもできます。私は後者のタイプです。
フルマラソンのスタートはまだ薄暗い午前6時30分。この時期の南カリフォルニアは一応冬なのですが、それほど厚着は必要ありません。私はいつもTシャツと短パンで最初から最後まで走ります。この季節でも日中は摂氏20度くらいまで気温が上がることは珍しくありませんし、ランナーはゴールするのが遅ければ遅いほど、前半の寒さよりむしろ後半の暑さを警戒するべきだからです。
エイドステーションは過剰なくらい用意されていますので、補給の心配はありません。公式なものと私的なものがあるらしく、そのなかには毎年同じ場所で待ち構えているユニークなグループもあります。
地元高校のチアリーダーやブラスバンドの応援は華やかです。「カンナム・スタイル」を大音量で流す韓国人の団体にも、和太鼓を叩く日系人の団体にも励まされます。キャンピング・カーが集まった駐車場の近くでは「いいからビールを飲んで、ベーコンを食べていけ」と紙コップと紙皿まで用意してランナーに声をかけてくるヒッピーみたいな困ったおじさんたちもいます。ピース。
地元ランナーの比率がどれほどなのかは知りませんが、遠くから参加している人も少なくないと思います。スタート・ゴールの目の前にホテルが数軒建っていますので、そこに泊まる人も多いようです。でも、日本人らしきランナーを見かけることはあまりありません。
ただ一度だけ、背中に生ビールの絵と「打ち上げの乾杯までがマラソンでっせ」と日本語で書かれたTシャツを着た女性ランナーを追い抜いたことがあります。話しかけてお友達になろうかと一瞬思いましたが、自重してペースを守りました。この文章を目にして、「それって私のこと?」と思い出してくれたら嬉しいのですが。
ゴールはスタートと同じ場所に戻ってきます。ピアと呼ばれる桟橋の近くです。海岸線に沿って走る州道1号線、別名パシフィック・コースト・ハイウェイにまるで花道のような最後の数百メートルが設けられています。街道からの声援もひときわ大きくなります。最後の力を振り絞ってそこを駆け抜けるのは、何回やっても、とても気持ちが良いものです。
「地球の歩き方」風、海外マラソンのススメ。
観光とマラソン参加をペアにした旅行と言えば、ハワイのホノルル・マラソンが有名です。コロナ禍以前の最盛期は全参加者の実に半数以上を日本人が占めていましたが、レースが復活した2021年度にはその比率は3.5%にまで減ったそうです。パンデミック収束後は徐々に日本人ランナーが戻ってきて、2023年には9,168人、全体の32%を占めました(公式ウェブサイトの情報より)。
昔も今もハワイは人気が高い観光地です。私にとっても世界でもっとも好きな土地のひとつです。そこで行われるレースに出てみたいと思う人がたくさんいることは不思議でもなんでもありません。
しかしながら、マラソンの開催地という観点からすると、ホノルルは必ずしも最適の条件を備えているとは思えません。まず走るにはいささか暑すぎますし、混雑もしています。エントリー費もちょっと高いですね。ハワイ在住者、アメリカ・カナダ在住者、その他海外に分かれていて、日本からの参加者は300ドル(約45,000円)前後というのは、あんまりではないかなと個人的には感じます。
そんなことはない。ホノルル・マラソンは最高だ。何度でも走りたい。そんな人もいるかもしれませんが、次からはハワイ以外の場所にも目を向けてみませんか、と提案することがこの記事の主旨です。けっしてホノルル・マラソンを(他の人気があるレースも)否定しているわけではありません。
サーフシティー・マラソンに限らず、アメリカ各地で行われている大小無数のレースのほとんどは、インターネットで参加申込から支払いまでの手続きが完了します。ホテルや交通機関の予約についても同様です。旅行代理店のパック旅行を利用しなくても、個人で好みのレースに参加するのはさほど難しいことではありません。
次のサーフシティー・マラソンではもっとたくさんの日本人ランナーに会えますように。生ビールのTシャツを着た人には今度こそ声をかけようと思います。