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COLUMN

高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、その1。

2024.10.06
GO KAKUTANI
高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、その1

2024年シーズン最初のクロスカントリー走レースで号砲を待つランナーたち。

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、11月中旬まで続く新たなシーズンを迎えた同部の活動について、そのトレーニング方法などをご紹介。実は超がつくほどの進学校という同校で、大部分がランニング素人というメンバーたちの走力アップに挑んでいきます。

私がクロスカントリー走を指導する高校の新学期が8月19日に始まり、同日にシーズン初練習を行いました。これから11月中旬のリーグ最終レースまで約3か月間続くシーズンの幕開けです。

高校クロスカントリー走レースのほとんどは3マイル(約4.8km)の距離で行われます。市民レースでもっとも短い距離にあたる5km走とほぼ同じで、ランニングの習慣があまりない人でも走ろうと思えば走れる距離です。いつかはフルマラソンを目指すにしても、初レースは5km走から始める人も多いでしょう。

関連記事:クロスカントリー走と駅伝はどこが違うのか?

私は高校クロスカントリー走の指導を始めてから今年で8年目になります。仕事の重要な部分は、高校生ランナーたちに5kmくらいの距離を走るタイムをいかに改善させるかにかかっています。この命題については、これまでにも試行錯誤を繰り返してきました。

もっとも、私はそれほどレベルの高い競技ランナーを指導しているわけではありません。なぜなら、私が指導するチームは、新入生のほとんどが長距離走の経験がまったくありませんし、昨シーズン末から全然運動してこなかった上級生も多く混じっているからです。言うなれば、そんなランニング素人がメンバーの大部分を占めているのです。年齢層はともかくとして、初心者の市民ランナーを指導することとさほど大きな違いはないと思います。

現状把握と目標設定。

高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、その1

ウォーミングアップ中。これでも真剣なのである。

アメリカの高校は4年制です。日本で言うと、中学3年生から高校3年生までにあたります。下は14歳から上は18歳まで、身体的にも精神的にも、彼らの成長度はまことにさまざまです。まるで小学生みたいな幼い顔つきをした1年生もいれば、大人と見間違えそうな老け顔の青年もいます。この年齢の男女をひとつのグループに入れてよいのかとは思いますが、昔からそうなっているので仕方ありません。

さて、シーズン開始の段階で私がまず彼らに課すのは、とりあえず5kmを走らせてみせることです。学校近くの公園に1周約500mの平坦なコースがあるので、そこを10周走るわけです。一応、タイムトライアルと呼んでいますが、雰囲気はかなり緩いものです。

「どんなペースで走ってもいいし、疲れたら歩いてもいい。とにかく、5kmという距離を自分の足で移動するとはどんなことかを経験するのが目的だ。今日の段階で君らがどれくらいできるかを僕に見せてくれ」と生徒たちには言います。

実際に走らせてみせると、生徒たちの5km走タイムは大体下のような3つのレベルに分かれます。

A. ジョグよりは速いペースで走り通し、25分以下でゴールできる。
B. ジョグのペースで、なんとか走ることができる。タイムは30分程度。
C. 全体を走り通すことができない。タイムは40分程度。

そんなに遅いの? と驚かれるかもしれませんが、5kmどころか1km以上走るのはこれが生まれて初めてだ、なんて生徒も少なくないのです。ごくごく稀に、最初から20分を切る、すでにランナーレベルの生徒が入ってくることもありますが、今年は最速の生徒でも23分台でした。

私の目標は、そんな彼らに約3か月後のリーグ最終レースまでに、現在より2割増しの走力を身につけさせることです。生徒たちにもそう伝えます。

「長距離走は退屈なスポーツかもしれない。だけど諦めずに続けさえすれば、3か月後には誰でも今より上のバージョンに自分を高めることができる」なんて熱く語るときもあります。俺を信じろ、とまでは流石に恥ずかしくて、ジョーク交じりにしか言えませんが。

そして、以下のような具体的な3か月後の目標タイムも示します。大半の生徒は「え~~~」とか「ムリ~~~」とか声を上げますが、私の経験から十分に達成可能な数字であることを強調します。

A. 現在25分で走れる→20分を切る
B. 現在ジョグペースでしか走れない(30分)→24分を切る
C. 現在5kmを走り通せない(40分)→32分以下で歩かずに走れる

中長期計画とモチベーション。

高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、その1

クロスカントリー走のコースは険しい坂も多い。

長距離走のトレーニング計画を立てるときに主流となる考えがあります。初期の段階では距離を積み上げ、徐々にスピード練習を取り入れて、量から質へと移行していく段階的アプローチです。1940~50年代にニュージーランドから長距離走の分野で何人ものオリンピックメダリストを輩出させた指導者、Arthur Lydiard(アーサー リディアード)氏が提唱かつ実践した理論が基になっています。

リディアード氏は、長距離走の分野にピリオダイゼーション(Periodization)の概念を初めて持ち込んだと言われています。ピリオダイゼーションとは、長期的な計画を基に期間ごとのトレーニングを目的に応じて変えることを指します。

リディアード氏の方法論では、1つのレース前のトレーニング期間を半年程度とし、以下の4つの時期に分けました。

1)基礎コンディショニング期-長距離のジョギング中心(10~12週間)
2)スピード・トレーニング期-坂道やインターバル走中心(6~8週間)
3)無酸素能力トレーニング期-スプリント走中心(4~6週間)
4)レース準備調整期-休息、テーパリング(1~2週間)

私も多くのランニング指導者の例にもれず、リディアード氏理論を基本的には踏襲しつつ、現場の状況に応じてアレンジしていくことになります。

私たちが上の目標達成までに与えられた期間は3か月しかありません。さらに言えば、この学校は実は超がつくほどの進学校なので、シーズン期間中も部活動に使える時間は限られています。週に5日(月~金まで)、1日平均で60~90分程度の練習、そして2週間に1回程度の頻度で行われるレース。それがシーズンのすべてです。

さらに重要なポイントは、生徒たちのメンタル面です。普通の高校生である彼らに、オリンピック選手と同じレベルのモチベーションを期待するのは無理があります。今は基礎コンディショニング時期だから毎日ひたすら長い距離を走るぞ、なんて言ったら、たぶん数週間後にはクロスカントリー走部員はゼロになってしまうでしょう。

この限られた条件のなかで、いかに高校生たちの走力を上げていくか。次回は具体的な練習内容とレース結果、そして生徒たちの反応を含めてご紹介していきます。

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
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