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COLUMN

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

2025.11.13
GO KAKUTANI

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、先日ロサンゼルスで開催された「CycLAVia」の模様をお届けします。市内中心部の一部道路を通行止めにし、自転車や歩行者に開放する。都市型マラソン大会ともひと味違う、自由でファンなイベント。アメリカでの旅ランの選択肢としていかがでしょう。

10月25日に「CycLAVia- Heart of LA」というイベントに参加してきました。ロサンゼルスの中心地ダウンタウンの一部で、幹線道路からクルマを締め出し、自転車や歩行者に終日開放するというものです。全米各地で同様のイベントが行われていて、そのロサンゼルス版です。

今回のイベントのコースは、全長7.15マイル(約11.5km)。午前9時から午後4時までの間ならいつでも、どこから出発しても、どこから退出しても自由です。参加は無料。ルールはただひとつ。動力のついた乗り物は通行を禁止されます。

参加者のほとんどは、自転車に乗ってきていました。他にローラーブレード、乳母車、三輪車などが混じっています。たまにランナー同士ですれ違うときなどは、互いににっこり笑ってしまうくらい、自分の足で走る人は少数派でした。

私自身はチャイナタウンを出発して、リトルトーキョーを通過し、さらにロサンゼルス川を渡る6番通りの大橋で折り返し、またリトルトーキョーへ戻るコースを走りました。全部で約10kmでした。出発点と終着点への交通手段は地下鉄『Metro』です。

ロサンゼルスの地理に詳しい人がこのルートを聞けば、「マジ?」と驚くかもしれません。普段はクルマで埋め尽くされているだけでなく、かなり「ヤバイ」ところも含まれているからです。

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

英語・スペイン語・中国語で書かれたコース地図。筆者が走ったのは赤い部分。

民族多様性に富む市街地を走る。

当日の天気は快晴。ロサンゼルスにしては気温もさほど高くない摂氏20~25度前後。走るにはまずまずのコンディションでした。

スタート地点として選んだのはチャイナタウン。赤いランタンや古い石のアーケード、屋台の香りが漂う「中華街」です。ブルース・リーの銅像やジャッキー・チェンの映画で使われたレストランなど、私にとっては馴染みの深い場所です。

旧正月のパレードにも使われるメイン・ストリートが、この日だけは自転車で埋め尽くされています。まるで一昔前の中国のようでもありました。

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

チャイナタウンの入口。

途中、全米最悪の交通渋滞地帯かもしれない高速道路101号線上の橋を越え、市庁舎などがあるロサンゼルスの中心部に近づいていきます。ブロードウェイと1番通りの交差点を南に折れると、リトルトーキョーが見えてきます。140年の歴史を持つ、北米最大の日本人街です。

リトルトーキョーは、1990年代頃から徐々に寂れていきましたが、最近になってまた活気を取り戻しつつあります。その象徴とも呼べるのが、2024年に完成した大谷翔平選手の巨大壁画。新たな観光スポットとして人気を集めています。

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

リトルトーキョー、『ミヤコホテル』前。

中国人も日本人も激しい移民排斥を受けた歴史があります。今では、チャイナタウンからリトルトーキョーへと続くこのルートが、「ロサンゼルスの心臓部(Heart of LA)」と呼ばれるほどにアメリカ社会から受け入れられていることを、この地に長く住むアジア系移民のひとりとして嬉しく思います。

今回のコースには含まれていませんが、ダウンタウン周辺にはコリアンタウン(韓国系)、オルベラ通り/エル・プエブロ(メキシコ系)、フィリピノタウン(フィリピン系)、リトルバンコク(タイ系)といった、移民や外国の名前を冠した街がひしめいています。ロサンゼルスはまさに移民や民族のサラダボウルなのです。

さて、リトルトーキョーを通過して、さらに足を進めていくと、少し雰囲気が変わってきました。ストリートアートが壁一面に展開される洗練されたエリアもある一方、何やら不穏な落書きや荒んだ建物が目立って増えてきたのです。

多かれ少なかれ、アメリカの大都市では、人種による棲み分けや経済的格差が浮き彫りになります。ロサンゼルスも例外ではありません。リトルトーキョーからさほど離れていない距離にスキッド・ロウ(Skid Row)があり、今回のコースでもそのすぐ横を通りました。ホームレスや治安悪化の話題で象徴的に語られることも多い地域です。

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

スキッド・ロウ周辺の歩道にはホームレスのテントが連なる。後方はダウンタウンのビル群。

川と言うよりは巨大な排水溝のようにも見えなくもないロサンゼルス・リバーに架かる大きな橋を越え、高速道路101号線と交差した地点でリトルトーキョーまで折り返すことにしました。ここも普段ならクルマでしか来られない場所、見ることができない風景です。

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

ロサンゼルス・リバーを渡る橋。

移民や外国人の多い土地柄ですので、むろんトランプ政権が強引に推し進める排外主義政策には大きな反発があります。橋のあちこちに、「○○○ Trump」とか「X△! ICE(移民・関税執行局)」のような、こちらでは紹介できない単語を書き連ねた落書きやプラカードも目立ちました。

観光ランとしての「Open Streets」。

このような「自動車通行止め+歩行者/自転車開放」のイベントは、元をたどれば南米コロンビアの首都ボゴタで、1970年代に始まった「Ciclovía(スペイン語:自転車道/自転車+道)」に由来します。

そこからアメリカ各地に広がり、例えばニューヨークの “Summer Streets”、サンフランシスコの “Sunday Streets”、シカゴの “Open Streets Chicago” など多数の都市で採用されています。一般的には「Open Streets」の呼称が用いられることが多いようです。

ロサンゼルスの「CycLAVia 」は2010年にスタートし、現在では月に一度のペースで市内の異なる地域と道路を舞台に開催されています。 「映画の都」ハリウッドが含まれるときもあります。

ロサンゼルスのど真ん中を走る—「CycLAVia」体験記

地下鉄リトルトーキョー駅。自転車の持ち込みは自由。

こうしたイベントの主な目的は、クルマ中心の都市計画を見直すことにあります。交通渋滞や大気汚染、歩行者・自転車の安全性といった都市が抱える課題に対して、「街は人にとっても開かれるべき」というメッセージを発信しています。

ランナー視点からは、「普段クルマが走る車道を自由に走る」こと自体が貴重な機会になります。東京マラソンやニューヨーク・シティ・マラソンのような都市型レースでもそれができるわけですが、そこでは走り出す時間も向かう方向も定められています。

観光地を巡りながら走る「旅ラン」を楽しみたい人にとっては、Open Streets は理想的なイベントです。スタートもゴールも自由、距離も選べます。観光の合間に30分だけ車道を走るもよし、のんびりと半日を過ごすもよしです。何より、クルマで通り過ぎると見落としてしまいがちな街の姿をじっくりと観察することができます。

ロサンゼルスに限らず、アメリカの都市を訪れる機会があれば、Open Streetsのイベントをチェックしてみては如何でしょうか。

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に電子書籍『ランニングと科学を斜め読みする: 走りながら学ぶ 学びながら走る』がある。https://www.amazon.co.jp/dp/B08Y7XMD9B 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
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