高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、感動の(?)フィナーレ(最終回)
アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、過去2回に渡ってお伝えしてきた「高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト」の完結編。果たしてその結果やいかに。
2024年の高校クロスカントリー走シーズンを締めくくるリーグ最終レースが11月6日に行われました。
とは言っても、締めくくってしまうのは弱いチームだけ。リーグ戦上位のチームは翌週からの地域ブロック予選、同決勝、そして11月末の州大会へと続くポストシーズンに突入します。
私が指導するチームは残念ながらポストシーズンにはあまり縁がありません。リーグ最終レースをもって、今年のシーズンは終了しました。
しかし、長距離走に取り組む意義は他人との競争に勝つことのみにあるわけではない。それよりも、自分がどれだけ成長できるかがもっと大切なのだ、と生徒たちに(そして自分自身に)くどいほど言い聞かせてきた3か月間でした。
関連記事:
高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、その1。
高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、その2。(中間報告)
タイム20%短縮の目標は達成したか?
リーグ最終レースの5週間前に、3分の1の距離にあたる1マイル(約1.6km)のタイムトライアルを行い、本番ではそのペースで最後まで走れとムチャ指示を出したことは前回にお伝えしました。
それができたのか? できたのです。下は前回の記事で紹介した3人の1マイル走タイムと本番3マイルレースでのタイムを並べたものです。カッコ内は1マイル走タイムを単純に3倍した目標タイムとの比較です。
• J君:6:47 → 20:48 (-7秒)
• B君:8:45 → 24:01 (-2分14秒)
• L君:7:25 → 24:36 (+2分11秒)
J君とB君は2年生。2人とも目標タイムを上回っただけではなく、昨年のレースで同じコースで走ったタイムより4分以上速くなりました。1年生のL君は3か月前には3マイルを走り通すことさえできませんでした。
他の部員たちも軒並み自己最速タイムを大幅に更新しました。30分を24分に、25分を20分にと、まるでミッション・インポッシブルのような目標を掲げた「3か月で20%のタイム短縮プロジェクト」でしたが、ほぼ成功したと胸を張りたいと思います。
もちろん、目標を達成したのはランナー本人たちであり、コーチの私ではないのですけど。
スピード強化に取り組んだシーズン後半。
シーズン前半は、とにかく5kmを走り通すための段階でした。後半はそこから一歩進めて、個々のスピードを強化することに練習の重点を置きました。
とは言え、彼らは毎日のように強度の高い練習をするほどの身体はまだできあがっていません。私が選んだのは、スピード練習は週2日に留め、間にジョグだけを行う緩い日を挟むサンドイッチ方式です。
スピード練習の日に行ったメニューは以下のようなものです。
• 1マイル(1600m)走タイムと同じかやや遅いペースで、1600m、1000m、600m の3セットを走る。セット間休息は10 分。
• 400mを80~90%で走るインターバル走。個々のレベルに応じて4~8セット。セット間休息は2分。
• 約100mの上り坂を全力で走るリピート走を10セット。セット間休息は4分。
どれも死ぬほどきつい、というほどではありませんが、けっして容易なものでもありません。スピード練習そのものにかかる所要時間は30~40分ほどですが、その前のウォームアップにも同じくらいの時間をかけました。
ウォームアップは1kmほどのスロージョグ、5~10分間ほどのアクティブ・ストレッチ、そしてスキップを中心としたドリルを必ず行いました。
ドリルは、自分たちで行えるようになるまでは時間がかかります。信じられないかもしれませんが、小さいときからあまり運動をしてこなかった高校生は、スキップができないことも珍しくないのです。彼らに説明するために、私も秘かに別の場所で練習することになります。
ドリル練習をするための練習の様子:
https://www.instagram.com/reel/DBKwAVXPa23/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==
重心の真下に着地すること、地面からの反動を意識すること、ひいては足の接地時間を短縮し、脚の回転を速めることがこのドリル練習の狙いです。最初はドタバタしていた生徒たちも、毎日行っているうちに段々と動きがスムーズになっていきました。
自転車で先導役を務めたリーグ最終レース。
こうして臨んだリーグ最終レースでしたが、私はいつものようにコース脇で大声を上げるだけというわけにはいきませんでした。ランナーたちを自転車で先導する役目をリーグから仰せつかったためです。今年で4年連続になります。
リーグ内には10~15校が所属していて、シーズンごとにレース運営にかかわるさまざまな役割を各校で持ち回りしているのですが、なぜか最終レースの先導役だけは私に固定してきました。
トップを走るランナーに追いつかれないように先行しますので、時速20kmくらいのペースを保つことになります。先導するというより、追いかけられると言った方が実情に合っているかもしれません。
このコースはほぼ平坦ですし、レース距離は3マイル(約4.8km)。これが1回だけならさほどの難事ではないのですが、レースは男女別、そしてレベル別に分かれて行われます。男子のあるレースを先導し、ゴールに到着するとすぐに女子の別のレースがスタートするというわけです。
都合4回、下見を含めると5回、ぐるぐるとコースを周るので、合計でハーフマラソンほどの距離を、私にとってはかなりのハイペースで自転車を漕ぐことになります。この役目を毎年務めることも、私にとっては体を鍛えるためのモチベーションになっている気がします。
ただひとつだけ残念なことは、レース中に自分が指導したランナーたちの姿を見られないことです。トップグループから10mほどの距離を維持して先行するのですが、そこにいるのはいつも他校のランナーです。私の生徒たちははるか後方の集団にいます。
レースを先導しながら後ろを振り返ると、我が校のユニフォームを着たランナーたちがトップを争っている。そんなシーンを見ることが私の夢です。いつかは彼らも同じ夢を見てくれることを願いつつ、来シーズンもまた彼らと一緒に走れるように精進していこうと思います。