高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト、その2。(中間報告)
アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、「高校生の5km走タイムを3か月で20%短縮させるプロジェクト」の中間報告です。高校生の彼らに練習を飽きさせないよう、故障させないようトレーニングを積んでいきますが、ランニング素人だった彼らがみせる成長曲線には驚かされます。
この記事は、約3か月の高校クロスカントリー走シーズンがほぼ半ばを過ぎた頃に書いています。私が指導するチームは9月12日に初レースがあり、10月1日に2番目のレースを終えたところです。
ランニング素人を集めた部員たちの走力も徐々に上がってきました。いつも感じることなのですが、高校生の成長スピードには目を見張るものがあります。
もし私にコーチングスタイルがあるとすれば、それは部員たちと一緒に走ることです。レースやタイムトライアルの日以外は、基本的に私も彼ら高校生たちと同じメニューをこなします。私にとっても、この3か月間は格好のトレーニング期間なのです。
毎年、シーズン最初のうちは私がトップで集団を引っ張っていても、段々「コーチのペースは遅すぎる」と抜け出す部員が出だし、シーズン後半にはそのうちの何人かには追いつけなくなります。
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「ひたすら長い距離を走れ」とはいかない理由。
シーズン前半を基礎固めの時期とするならば、本来はとにかく長い距離を走るための筋力と心肺持久力を作ることが最優先課題です。スピードやペース配分は二の次です。
だからと言って、ランニング素人たちに毎日ひたすら長い距離を走れと指示できないことは前回説明した通りです。走り慣れない彼らに過重な負荷をかけて故障させないよう、もう飽きたから辞めますと言わせないよう、私なりに色々と工夫をこらすことになります。
たとえば、シーズン開始後の第1週と第4週に行った練習メニューはそれぞれ以下の通りでした。
<第1週>
• 月曜:ドリルを挟んで、1kmのジョグを2回
• 火曜:体幹トレーニングとストレッチ
• 水曜:1マイル(1.6km)タイムトライアル
• 木曜:スロージョグ24分(km/7分30秒ペース)
• 金曜:1マイル(1.6km)ジョグ3セット(セット間休息10分)
<第4週>
• 月曜:ジョグ5~8km(平坦なコース、個々のレベルに応じて距離を調整)
• 火曜:400m走5セット(セット間休息3分)
• 水曜:体幹トレーニング、ドリル、ストレッチ
• 木曜:峠走約6km(長い坂道を前半下り、後半上り)
• 金曜:坂道インターバル走(約100mを10セット。上りを全速、下りは歩き)
その日のメインテーマとなるメニューの前後にウォームアップとクールダウンをそれぞれ行います。
土、日は休みです。つまり、私たちが行っているのは週5日の練習。そのうち1日は走らない日を設けますし、月間走行距離はたぶん100km以下です。
ずいぶんユルイな、と思われるかもしれませんが、私の目的はなるべく落伍者を出さないことです。1日の練習でヘトヘトに疲れさせるよりも、次の日も練習に来ようと思えるような余力を残させておきたいと思っています。見ての通り、徐々に距離と強度を上げていきます。
もうひとつ、私たちがどうしても週休2日にせざるを得ない独特の事情があります。この学校はユダヤ教に基づく小中高一貫の私立校なのですが、土曜日は教義上の休息日として一切の活動が学校から禁止されているのです。そして日曜日は、カリフォルニア州高校スポーツ連盟の規則で、やはり練習はできないのです。
シーズン後半に向けて。
この記事を書いている前日に、レースの3分の1にあたる距離である1マイル(1.6km)のタイムトライアルを行いました。そのタイムを6週間前のシーズン開始直後と比較すると、部員たちがいかに成長しているかが明らかに分かります。
もっとも速かったJ君のタイムは7分15秒から6分47秒まで、もっとも遅かったB君も9分20秒から8分45秒にまで改善したのです。この2人のタイム短縮率は約6%です。
もっとも高い成長曲線を描いているL君は9分15秒から7分25秒までタイムを上げてきました。既にこの段階で、シーズン目標としたタイム短縮率20%をほぼ実現しています。
11月上旬に予定されているシーズン最終レースまで残り5週間。タイムトライアルを終えてほっと一息をついていた彼らに、私は次のように言いました。
「みんなよくやった。1マイルならどれだけ速く走れるか、よく分かっただろう。最終レースでは最初からこのペースで走れ。そしてそのままのペースでゴールまで行け。明日からはそのための練習をする」
レースの距離は3マイルです。つまり、この日のタイムトライアルの3倍です。部員たちの「え~~~」とか「コーチはクレイジーだ~」って反応はいつもの通り。
しかし、私は彼らなら十分に可能だと考えています。競技ランナーとしては、現在の彼らのレベルは非常に低いと言わざるを得ませんが、その代わりに伸び代だけはたっぷりとあるからです。
要は、今よりもっと速く走れるようにして、かつそのスピードをもっと長く維持できるようにしたらいいのです。
「若いのだからできる」と彼らには言います。「元気があれば何でもできる」と、故アントニオ猪木さんの名言を英語にアレンジして鼓舞することもあります。
彼らのほとんどは、数年後にはハーバードやらスタンフォードやらの超一流大学への進学を目指します。そんな秀才ぞろいの彼らが、この戦略(とも言えない)に心から納得しているかどうかは分かりません。しかし、とりあえずは言うことを聞く素直さも持ち合わせている子たちです。
シーズン後半はスピード重視の練習へと移行しつつ、起こりがちな故障を予防するための注意を忘れないようにしていきます。