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COLUMN

日本陸上競技選手権で大会2連覇を達成した東海大学の館澤亨次選手。

2018.07.04
Takao Fujita
Shun Sato
東海大学の館澤亨次選手

第102回日本陸上競技選手権でも、ラスト勝負で2連覇した館澤亨次選手(写真右)

東海大学の館澤亨次(たてざわ りょうじ)選手(3年)が、日本陸上競技選手権の1500mで見事優勝。大会2連覇を達成したのですが、学生の連覇は59年ぶりの快挙で、史上4人目。これで関東インカレに次いで2冠を達成しました。館澤選手は昨年の箱根駅伝8区で区間2位を記録するなど、1500mから20キロの長距離までこなすマルチなランナーです。ただ、今シーズンのスタートは、館澤選手にとって厳しく、苦いものでした。

2、3月はアメリカのオレゴンで關颯人選手、鬼塚翔太選手、阪口竜平選手と合宿生活を送り、練習メニューをアメリカ式にして調整してきたのです。しかし、日本に戻り、4月22日、兵庫リレーカーニバルで1500mに出場すると小林航央選手(筑波大)に敗れてしまいました。得意のラストスパートが伸びず、逆にゴール前で相手に刺されてしまったのです。

昨年1500mで3冠(関東インカレ、学生個人、全日本)を達成し、今年は追われる立場になったことで負けることが怖くなり、勝たないといけないプレッシャーに苛まれるようになりました。しかも、「今、ラストスパートのフォームの改造をしていて……。でも、新しいスタイルがいいのか、前のがいいのか、迷っているんです」と、大きな悩みを抱えていたのです。

陸上選手にとってフォーム改造は、大きな挑戦です。新しいフォームに必要な筋肉をつけたり、動きを完全に自分のものにするまで、長い時間を要する場合もあります。改造していくプロセスで大会に出場し、いい感触があってもタイムが出ないとモヤモヤしてしたり、不安になったりします。ランナーにとってタイムは一番重要なものだからです。この時、館澤選手は、迷いの淵にいました。

館澤選手の従来のラストスパートは、ストライドを伸ばしていくスタイルでした。アメリカで刺激を受けた選手のラストスパートは、ピッチの回転数を上げてスピードを上げていくものです。その方がスピードが上がり、効率もいいからです。しかし、この頃、頭では理解しても体がうまく動かない、そんな感じでした。

それから1か月後、館澤選手は大阪でのゴールデングランプリで3分40秒49の自己ベストを出し、5位(日本人トップ)に入賞しました。館澤選手は、ピッチの速い走行を自分なりにアレンジし、うまくラストスパートのスピードに結びつけることができたのです。その後、関東インカレの1500mでも優勝して大会2連覇を達成。レースの内容もラスト200mからスパートをかけてトップに躍り出ると、ライバルの小林選手の追走を跳ね除けて、そのまま1位で駆け抜けた素晴らしいものでした。レース後は「今年はいろいろ苦しんで優勝できたので、昨年の優勝よりも嬉しいですね。これで自信を持って日本選手権に挑めます」と完全復活の手応えを得たのです。

館澤選手の良さは、自分の弱さを認め、そこから逃げないメンタルの強さにあります。深く悩みますが、逃げずに真正面から取り組み、だからこそ戻ってきた時はとても強くなっています。これは簡単そうに見えて、なかなかできることではありません。そういう選手はチームメイトからの信頼が厚く、館澤選手は3年生の学年リーダーという役職を担い、来年の主将候補にもなっています。

日本陸上競技選手権での連覇は、館澤選手が今シーズン、大きな目標にしていたもののひとつ。それを狙って取りにいき、達成できたところに大きな価値があります。大きな大会の優勝は1回目の時とは異なり、プレッシャーもかかり、難しいからです。

1位で駆け抜けた時は、得意のガッツポーツが出ました。「あれがトレードマークになるように、これかも勝ち続けていきたいです」と、勝ち続ける館澤選手は、そう言っています。アジア大会への出場も決定し、迷いの淵から生還して強さを身に付けた今シーズンの館澤選手の走りは要注目です。

第102回日本陸上競技選手権 1500m決勝動画(JAAF)

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Shun Sato
佐藤 俊
北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て93年にフリーランスに転向。現在はサッカーを中心に陸上(駅伝)、卓球など様々なスポーツや伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。著者に「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「駅伝王者青学 光と影」(主婦と生活社)など多数。
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