Saucony OUTRUN YOURSELF Part.2
開発拠点を訪れ、キーメンバーに躍進の秘密を聞く!
INTERVIEWS WITH KEY PERSONS。
フットウエアのプロが集結し、さらなる高みを目指す!
2020年のエンドルフィンシリーズのリリース以来、スピードを求めるランナーから絶大なる支持を受けることに成功したサッカニー。特にアメリカのロードレースでは、上級ランナーの着用率でトップ3に入ることも珍しくない。そんなサッカニーの開発部門が、ニューオフィスへと移転したとの知らせが入った。ボストン市街のオフィスを訪ね、同ブランドのキーパーソンたちに躍進の秘密を聞いた。
BOB GRIFFITHS
Global Brand President Saucony
これまで通り謙虚な態度でランナーと接していきます。
2014年にサッカニーの本社を訪れた。そのときはボストン郊外のマサチューセッツ州レキシントンに開発部門やマーケティング部門を置いていたが、あれから10年が経過し、昨年末に開発拠点がボストンの中心、NBAのボストン セルティックスとNHLのボストン ブルーインズの本拠地であるTDガーデンのすぐそばに移転。キーパーソンにインタビューする機会が与えられた。
まず話を聞くことができたのは、サッカニーブランドの社長であるロブ グリフィス。2023年6月より現職だが、サッカニーブランドを擁するウルヴァリン ワールドワイド社には2013年12月よりジョインし、同社が保有するメレル、ケッズ、スペリー、ハッシュパピーを始めとしたさまざまなブランドで成功を収めてきた。「現在のポジションに就く前はEMEA、すなわちヨーロッパ、中東、アフリカ担当の責任者でした。最初にサッカニーのトップに就任して着手しようとしたのは、パフォーマンスランニングの強化です。上級ランナー向けのラインアップであるエンドルフィンシリーズは高い評価を得ていましたが、中間層レベルのランナーに向けたプロダクトであるコア4と呼んでいるライド、ガイド、トライアンフ、ハリケーンといったモデルは、まだまだ満足できるセールスを記録していませんでした。まず、この部分を改善するということから始め、エンドルフィンとコア4に注力するということで、サッカニーがどういったブランドなのかということがランナーや小売店にとって理解しやすくなったと思います。これにより、一般ランナーからエリートランナーまでの幅広いレベルに効率よくアプローチすることが可能になり、より多くのランナーに我々のブランドを体感していただくことが可能になりました。以前はエンドルフィンシリーズとその他大勢のモデルといった感じで、フォーカスがぼやけていた状況だったのです」という。
彼の言葉を証明するように、個人的にもヘビーローテーションで履いているトライアンフ22は完成度が高く、アメリカでも良好なセールスを記録しているという。「就任以来、ブランドとしてセルスルーを重視するようにしており、我々から小売店に出荷するセルインだけでなく、小売店から消費者に届けられるセルスルーが重要であると考え、エンドルフィンとランナーのタイプに合わせてニュートラル、サポート、マックスクッショニングのタイプを網羅したコア4に注力モデルを絞ることで、小売店としてもフォーカスすべき点が明確になったと思いますし、ユーザーもサッカニーのランニングシューズがどのようなプロダクトであるかを理解しやすくなったでしょう。また、サッカニーの開発陣も、ミッドソールフォームをコア4とエンドルフィンで連動させることで一貫性を持たせることが2024年から可能になりました」と、改善した点を強調。アメリカで140ドルから165ドルのレンジのプロダクトの強化に成功したことによって、アメリカのランニングシューズマーケットにおけるサッカニーというブランドのポジショニングは、この1年で大きく変化したのである。日本ではまだまだピナクル、すなわちエリートレベルでの強さが目立つサッカニーであるが、明確なプロダクト戦略により、日本でも中間層レベルのランナーに対するサッカニーブランドの訴求が上手くいく気がする。
「サッカニーは、120年以上という長い歴史を有したランニングに特化したブランドであり、ただ長い間シューズを製造し続けているだけでなく、いつの時代もイノベーション、革新的な挑戦を続けてきたと自負していますし、その歴史の中でランニングコミュニティに対して責任を持って製品を発信してきました。私たち以外にランニングブランドはたくさんありますが、サッカニーのように長い歴史のあるブランドは数少ないですし、そのなかでランニングコミュニティに対して継続的に革新的なアプローチを行ってきたブランドは、もっと少ないと思います。一方で新しいトレンドに常に敏感であり、斬新なプロダクトをリリースしてきましたが、我々のチームには古参のスタッフから新しいスタッフまで、その経歴はさまざまで、彼らの才能の融合を目指して、すべてのスタッフが情熱と誇りを持ってランニングに接しています。アメリカは常にランニングをリードする存在でした。私はイギリスで生まれ育ったので、外側からアメリカのランニングカルチャーというものを見ていましたが、革新的なイノベーション、ランニングというスポーツが根付いているレベルは唯一無二でした。時代が流れ、テクノロジーの面では独自の切り口によって、日本のブランドの隆盛もありましたが、それに競合することで、アメリカのブランドも革新性をアップさせ、ランニング全体を底上げしたのだと思います。走るという行為に関して、ジョギング、ランニング、マラソンを始めとしたレース等々、さまざまな種類がありますが、アメリカの自由な思想やオープンマインドな考えがそういった走る文化を築いてきたと思います」と語る。
彼自身も週に3度ほど走り、ランナーのマインドをしっかりと理解しており、「2024年はより一層前進するために土台を築く年でした。この一年で優れたプロダクトの開発、適切な流通、従来よりも広いターゲットを対象としたアプローチを行いました。これは特にランニング専門店やスポーツ専門店において行い、シェアを拡大するのに不可欠です。サッカニーとしてはいままで通りにエリート層に満足してもらうことはもちろんですが、前述の通りより幅広い層にブランドの素晴らしさを知ってもらうために、例えば大きなレースをひとつスポンサードするよりも、10kmレースを複数サポートし、謙虚な態度でランナーと接することで、より多くのランナーにサッカニーのプロダクトを体感、理解してほしいと思っています」と、今後のブランドとしてのあり方を教えてくれた。
Ted Fitzpatrick
Vice President, Performance Product
Angus Treloar
Director, International Marketing
Cory Hofmann
Senior Performance Engineer
Luca Ciccone
Director, Product Engineering
Brian Moore
Chief Product Officer
すべてのパーツに最高の素材を使用する!
ロブ グリフィスのインタビューのあとは製品開発チーム、マーケティングチームから話を聞くことができた。プロダクトエンジニア部門の部長職であるルカ チッコーネは、「スポーツシューズの開発はピザに例えることができます。ピザを作る業者は沢山ありますが、サッカニーは、すべての食材に最高のものを使うというスタンスでピザを作るレストランのような存在です。そのなかでも我々が特に自信を持っているのが、ミッドソールフォームです。ラボで計測した数値も実証していますが、これだけは他社に絶対負けていないと思います。フォームつくりはパンの製造に似ています。パン作りでの小麦粉にあたる原材料を著名な化学品メーカーから仕入れ、イースト菌を混ぜて焼く工程が業界屈指の技術で発泡させるプロセスで、これにより他の追随を許さない素材が完成します」と、優れたフォーム開発技術をアピール。
「私たちが最近開発したフォームのベースとなる素材はTPEE(サーモプラスチックポリエステルエラストマー)で、この素材を独自技術で発泡させ、非ニュートン流体の特徴も応用しました。学校の実験で体験し、知っている人もいるかもしれませんが、片栗粉を水で溶いた液体は、ゆっくりと指を突っ込むと液体の中に難なく入りますが、速いスピードの衝撃に対しては、この液体は跳ね返すように反応します。この現象と同じで、弱い圧力しかかからないゆっくりと歩いている状態ではフワフワした感触ですが、強い衝撃が与えられる速いペースのランニング時では安定感も与えられ、驚くレベルの反発性も与えられるのです」と、シニアパフォーマンスエンジニアであるコリー ホフマンが説明してくれ、彼はそのフォームの反発性を証明するために厚手のシートを床に叩きつけると、天井にまで跳ね返った。「ラボにおいて、一定の圧力、時間をフォームにかけることで、与えた力と戻そうとする力の関係性からエナジーリターン、つまり反発力を計測でき、その差が少なければ少ないほど効率性がよい素材ということになります。この差の数値が0になることは無いのですが、エンドルフィン エリート 2に使用されているIncrediRunの素材を計測したときは、あまりに凄い数値が出たので、機械が壊れているのかと思ったほどでした。『量産化には時間がかかるかもしれないが、一刻も早くこの素材をシューズと合体させたい!』と考えた私たちは、すぐに工場とやり取りしました。2021年のことです。通常であればミッドソールを成形するには金型を必要とするのですが、金型を製造するには時間がかかります。そのために工場に無理を言って、素材の塊をある程度成形したあと、手で削ってミッドソールの形状にしてもらいました。アッパーなどはエンドルフィン プロ 3のものを流用することで、この素晴らしいミッドソールフォームを採用したプロトタイプサンプルが最速で完成したのです!」と、ルカがそのときのことを思い出しながら興奮した表情で補足した。この最初のプロトタイプサンプルは、リオデジャネイロオリンピックの男子マラソン競技で6位に入賞したジャレッド ウォードに渡され、「このシューズはほかにはない何か特別なものを感じる!」など、彼からは数々のフィードバックが得られた。
さらに、マーケティングを担当するアンガス トレロアは「エンドルフィン エリート 2は、立っているときや歩いているときは多少のグラつきを感じるかもしれませんが、実際に走って、徐々にペースを上げていくと比類なき反発性と充分な安定性も同時に提供してくれますよ」と、自らの経験も含めて解説。最近では、高性能ながらフルマラソン1回分やフルマラソン4回分の走行距離しか耐久性を保証しないレーシングシューズもあるが、コリーは「走り方や体重によっても異なりますが、これまで100足以上のテストサンプルを回収して分析した結果、最高で500マイル(約800km)を走った後にも充分な反発性能を残していたシューズもあったように、IncrediRunを採用したエンドルフィン エリート 2は、一般的なランニングシューズと比較しても遜色のない耐久性を有しているということが言えるでしょう」とのこと。こうして完成したエンドルフィン エリート 2は、2024年のテスト販売を経て、2025年スプリングシーズンにいよいよ本格リリースされる。

写真下の樹脂が独自の技術で発泡され、成形されることで機能性に優れたミッドソールが完成。最終的なスペックが決定されるまで、幾度ものトライ&エラーが繰り返される。

ミッドソールに内蔵されるカーボンプレートに関しても、形状や硬度の決定にはラボにおけるテストやアスリートからのフィードバックが不可欠だ。
一方で、パフォーマンスプロダクトの副社長であるテッド フィッツパトリックは、サッカニーのランニングシューズがいかにレースシーンで高い着用率を誇っているかを教えてくれた。「ニューヨーク、ボストン、シカゴ、ベルリン、ロンドンといったメジャーマラソンでは、エンドルフィン プロとエンドルフィン スピードが、着用率でトップ10に入っています。また、カーボンプレートを内蔵していないシューズに限定すると、エンドルフィン スピードがナンバーワンにランクされています。これはAI技術で判定されました」と、速いペースにおけるサッカニーの優位性を嬉しそうに語った。実際にこのインタビューの数日後にカリフォルニアインターナショナルマラソンを走ったが、サブ4より速いコラルに集合した数多くのランナーがサッカニーのエンドルフィン シリーズを履いており、ざっと見積もって着用率は2位のポジション。彼のコメントを立証していた。また、東京マラソンにおいても海外からのランナー、特に女性ランナーのサッカニーの着用率は想像以上に高かったことを思い出した。テッドは「アメリカでも男性ランナーはオリンピックやメジャーマラソンで活躍する有名選手が着用したのと同じシューズを履きたがるのに対し、女性ランナーは『自分の足にフィットしているか?』『長い距離を走っても快適か?』ということを重視してシューズを選ぶので、サッカニーの着用率が高いのです」と付け加えた。今後も一般ランナーからエリート層まで、あらゆるレベルでのサッカニーの躍進が期待できそうだ。

契約アスリートのジャレッド ウォードはオンラインでインタビュー。
世界中のランナーに体感してほしい1足です!
ジャレッド ウォードは、1988年9月9日生まれの36歳、アメリカ合衆国ユタ州レイトン出身の長距離ランナー。2016年3月、L.A.マラソンの前日に行われたオリンピックトライアルで3位に入り、見事にリオデジャネイロオリンピックの男子マラソン競技のアメリカ代表に選出された。同年8月のリオデジャネイロ五輪では、20℃を超える高温条件のなか2時間11分30秒のタイムでゴール、見事6位に入賞した。ハーフマラソンとフルマラソンの自己記録は、それぞれ1時間1分42秒、2時間09分25秒というアメリカを代表するランナーだ。
そんなジャレッド ウォードは、サッカニーを代表する契約アスリートであり、現在は大学教授として、イギリスのオックスフォードに在住している。今回はオンラインで、サッカニーのプロダクトについてさまざまな話を聞くことができた。ジャレッドは「子供の頃からサッカニーのランニングシューズを履いていて、大学卒業後にいろいろなスポーツブランドから誘いがありましたが、幼少時からサッカニーを履いていたという背景もあり、契約アスリートとして一緒に活動していくことに決め、この10年間、テッド(テッド フィッツパトリック)やガス(アンガス トレロア)と良好な関係を築き、心の底からサッカニーファミリーの一員であるという気持ちでいます」と、サッカニーのことを単なる契約しているブランドではなく、それ以上の存在であることを強調した。「自分の専門分野であるアナリティクス、すなわち分析学において、サッカニーというブランドが二つの点で特に優秀であることを理解できました。ひとつは製品の機能性向上、もうひとつはランニング障害を防止してくれるという点です。自分が製品開発に関わるようになったのは、2018年のことで、テーブルにあるグリーンのシューズがそのスタートとなったサンプルです。2016年にリオ五輪でマラソンを走った際に、当時一般的だった薄めのミッドソールのレーシングフラットではなく、のちにスーパーシューズと呼ばれるようになるミッドソールの厚いカーボンプレート内蔵シューズを履いていたのはたったの3人だけでした。しかしながら、徐々にエネルギー効率のよさが注目され、各ブランドは、こうしたタイプのシューズの有用性に気付き、エナジーコストセービングという、その数値の改善を追求するようになりました。エナジーコストセービングとは、km/3分で走るという前提値があった場合、そのときに必要な酸素量がシューズを履き替えた場合にどれだけ差が出るか? という比較ですね。体内に酸素を取り込み、それがどれだけ有効に運動へと繋げていくかという数値を測定することで、シューズの性能も数値化することができます。こうした比較、分析をすることによって、サッカニーの優れた走行性能が証明できました。2018~2019年にエンドルフィンの初代モデルの開発に加わりましたが、この頃になると、こうしたエネルギー効率の向上を目指したシューズの開発を各ブランドが一斉にスタートさせましたが、サッカニーは本当の意味で実用的な製品とし、運動能力向上に直結することができた数少ないブランドのひとつだったと思います」という。

ジャレッド ウォードのフィードバックが活かされたエンドルフィン シリーズの初期プロトモデル。

エンドルフィンエリート2のプロトタイプ。ミッドソールは素材の塊からの削り出しだ。
「ヒール部分にWARDと、私の名前が入れられた3種類のプロトタイプサンプルが用意され、トレッドミルでエナジーコストセービングの数値を計測していましたが、3つ目のサンプルをトライしているときに私は「コレだ!」と思わず叫びました。そのときの数値は4.4%の改善という、それまでにない数値を記録したのでした。そこで、2018年11月にそのシューズを履いてニューヨークシティマラソンを走ることにしました。正直言うと、そのときのコンディションは良くなかったのですが、そのシューズは下り坂で優位性を感じただけでなく、上りでのサポートも意識することができました。その結果、体調はイマイチだったのにも関わらず、2時間12分24秒でゴールし、6位に入賞しました。このとき履いていたのと同じグリーンのサンプルは、今も20足以上持っていますが、私にとって強い想い入れのあるプロダクトです。このときから加速度的に開発が進み、2020年に初代エンドルフィン シリーズが発表されました」と、当時を回想してくれた。

ラボにおいて繰り返し行われるテストも製品開発における重要なファクターとなる。
「最近では、エンドルフィン エリート 2の開発にも協力しましたが、最初のプロトタイプサンプルはとても印象的でした。エンドルフィン プロ 3のアッパーに、削り出しの最新ミッドソールを組み合わせた風貌は独特で、開発チームと私はフランケンシュタインと呼んでいました(笑) 立っている状態や歩いているときは若干の不安定さを感じましたが、ラボでの走行テストでエナジーコストセービングの数値を計測すると、9%という驚異的な数値を記録。このサンプルに使用されていたフォームは最終的にエンドルフィン エリート 2に採用されたIncrediRunへと発展していくのですが、一般的には軽さを追求すると耐久性に難が出たり、反対に耐久性を重視すると重くなってしまうのですが、このフォームは軽さ、速さ、耐久性の3点を高いレベルで兼ね備えていました。個人的には、300マイル(約480km)を超えれば充分な耐久性を有していると考えますが、このフォームはその条件をクリアしています。知り合いのトップアスリートが自分の家に居候して練習していた時期があり、彼はこのサンプルを履いてトレッドミルで走ると、『こんな走りやすいシューズはない!』と感動し、以前は別ブランドの契約だったのが、現在ではサッカニーアスリートになったほどです。エンドルフィン エリート 2は、このときのプロトタイプサンプルからミッドソールの形状に工夫を凝らしたことで、安定性も向上しています。これによりエリートだけでなく、幅広い層のランナーにも対応する1足に仕上がっていると思います。世界中のランナーに体感してほしいですね」と、サッカニーの最新レーシングシューズを絶賛していた。

いくつものプロセスを経て完成したエンドルフィン エリート 2。その比類なき反発性能は、アスリートが持つ本来のポテンシャルを引き出してくれるはずだ。

今回取材に協力してくれたメンバー。これまでも業界で活躍した著名な人物が集結し、サッカニーというブランドをより一層躍進させる原動力となる。
PART.1はこちら
今回の特集(PART.1&2)がミニブックになって「Saucony HARAJUKU FLAGSHIP」にて配布されます。手に入れたい方はぜひ!
Saucony HARAJUKU FLAGSHIP
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営業時間:11:30~20:00
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