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COLUMN

ランニング中の肉離れはなぜ起きる? 原因、リハビリ、予防対策。

2026.02.08
GO KAKUTANI

ランニング中の肉離れはなぜ起きる? 原因、リハビリ、予防対策

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、スポーツをするうえで多くの人が経験したことがあるであろうケガ、特に肉離れについて深堀りしていきます。筆者自身の経験を踏まえ、どうすればリスクを最小限に抑えることができるのか。そのヒントをご紹介します。

個人的な話なのですが、2025年は故障に悩まされた1年でした。前年末に左ハムストリングス(太ももの裏側にある筋肉群)の肉離れを起こし、そこからのリハビリ、再発、再リハビリ、再再発という負のスパイラルに巻き込まれながら、あらためて長期的な予防対策にも取り組みました。

みっともないことに、私のケガはまったく必然性のないものでした。草野球の試合前、ウォームアップで外野を走っていて、とくにしなくてもいいダッシュ走を試みたときに、ハムストリングスにガツンと衝撃がきました。試合本番ならまだしも、ケガを予防するためのウォームアップでケガをしたのですから、話になりません。

一口に肉離れと言っても、損傷の程度はさまざまです。あくまで自己診断ですが、私のそれはグレードII(部分断裂で歩行に支障)と III(完全断裂で歩行困難)の中間あたりだったと思います。

ケガをした日は、駐車場に停めた車までの数10メートルを歩くことすら大変でした。痛みは1週間ほど続き、軽くジョグができるようになるまで1か月くらいかかりました。やっと治ったと思って、少し走るペースを上げるとまた痛む。その繰り返しでした。

私のように不注意ではなくても、多くのランナーにとって、ハムストリングスやふくらはぎの肉離れは大敵です。たいていは予期せぬ突発的なタイミングで発生しますし、回復までには長い時間がかかります。再発リスクも高いとされています。

肉離れという、この厄介な敵といかに向き合うべきか。その発生メカニズム、年齢との関連、予防・フォーム改善、リハビリまで、科学的な視点を交えて理解を深めていきましょう。

肉離れって何?

肉離れとは、筋肉や筋腱が部分的、または完全に損傷するケガの総称です。ランニング中に多いのは、筋肉が伸ばされながら力を出す(伸張性収縮)場面で起こる損傷です。個所としてはハムストリングスやふくらはぎによく起こります。

ランニング動作中、接地直前に脚が前方へ伸びていく時、ハムストリングスは強い伸張性収縮を受けます。これが負荷となって筋線維が損傷しやすくなる。こうしたメカニズムはスポーツ医学のレビュー論文(*1)でも指摘されています。

ランニング中の肉離れはなぜ起きる? 原因、リハビリ、予防対策

年齢が高くなるほど肉離れは起きやすいのか?

一般的にランニング中の肉離れは、年齢を重ねるほど起きやすいという印象があります。実際、子どもからティーンくらいまでの年齢では、まず聞くことがないタイプの故障です。彼らはウォームアップなんかしなくても、いきなり全力疾走しても何ともありません。まるで野生動物です。

上は私の印象に過ぎませんが、先に紹介したレビュー論文(*1)でも、肉離れの発症率と年齢との間に強い相関関係があることを指摘した研究を複数紹介しています。容易に想像できる通り、年齢が上がるほど肉離れのリスクは高まる傾向があるということです。

具体的な例として、とくにスポーツ選手を対象にした研究では、20歳前後に比較して、23〜25歳以上で損傷リスクが増加すると報告されています。さらに、年齢が1歳増えるごとにリスクが増すという報告もあります。

2020年の系統的レビュー・メタ解析(*2)でも、年齢上昇が他の多くの要因と比べても肉離れの有意なリスク因子として示されたと報告されています。

ではなぜ、年齢が上がると肉離れを起こしやすくなるのでしょうか? 一般的には下のような加齢による身体的な変化が原因だと思われています。

• 筋機能の低下:筋肉そのもののパワーが落ちやすく、伸張性に対する耐久性も減る。
• 柔軟性の低下:筋・腱の柔らかさが減少しやすく、急な伸張に耐えられなくなる。
• 回復力の低下:筋損傷後の修復が遅くなりやすい。

こうした要素が複合して、若い頃よりも肉離れを発症しやすく、再発もしやすい傾向が生まれると考えられています。

誠に残念ながら、大人は子どもには戻れません。加齢による衰えは努力によって克服するしかありません。私たちにできるのは、筋力を鍛え、柔軟性を高め、そして回復に気をつけることです。

ランニング中の肉離れはなぜ起きる? 原因、リハビリ、予防対策

肉離れが起きてしまったとき、R.I.C.E.はもう時代遅れ?

あらためて述べることでもありませんが、肉離れはとても痛いです。発症直後の強い痛みや腫れが引いた後でも、しばらくの間は故障個所を動かすことには苦痛が伴います。

つい最近まで、ケガをしたときの対応は、「R.I.C.E.」 処置が適切だと長い間信じられてきました。Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)、これらの頭文字をとったものです。

ところが近年になって、Rest(安静)を否定する説が有力になってきました。休むより軽く動いた方が、むしろ回復が早まるという考え方です。

安静にしている方が楽なことは言うまでもありませんし、無理は禁物ですが、じっと安静にしているよりは、軽く動いた方が損傷した筋繊維の回復は早まります。

ちなみに、Ice(冷却)についても、最近はその有効性が否定されつつあります。患部を冷やすと痛みは軽減されます。腫れも引きます。しかしながら、それは筋肉の炎症を防いでいるのではなく、単にそれを遅らせているだけで、回復にかかる時間はかえって長くなってしまうらしいのです。

痛くても、休むな、冷やすな、というわけで、まるで昭和の根性論のようですが、最近のスポーツ医学ではそれが故障からの回復方法として一般的に提唱されているのです。

肉離れのリハビリ及び予防のためのトレーニング

リハビリとはケガをする前の状態に戻すことではありません。むしろ故障した箇所を以前より強化しなければ、再発のリスクは同程度に存在し続けるからです。

肉離れは痛かった。もうあんな目にはあいたくない。そう思うのであれば(私は思いました)、肉離れを起こしやすいハムストリングスをこれまで以上に鍛えるしかありません。

早稲田大学の研究者による論文(*3)は、肉離れを予防するためにハムストリングスを鍛える方法として、ゆっくりと筋肉を伸ばしながら負荷をかけるトレーニング種目をいくつか紹介しています。ノルディック・ハムストリングス、ヒップ・エクステンション、シングル・レッグ・デッドリフト、などです。

ランニング中の肉離れはなぜ起きる? 原因、リハビリ、予防対策

ケトルベルを使ったシングル・レッグ・デッドリフト

筋肉のパワーを増やすだけではなく、それを有効に使うための神経筋協調性ドリルも効果的です。ジャンプ、ラダー、ヒップヒンジなどの動的ドリルは、筋・神経・関節の連携を強化し、瞬発力を高めます。

ランニング中の肉離れはなぜ起きる? 原因、リハビリ、予防対策

ボックスジャンプ

トレーニング前後に動的ストレッチ(動きながら筋肉を温める)を取り入れると、筋肉がスムーズに働きやすくなるうえ、リハビリにも有効です。

ランニングフォームと肉離れの関係

もうひとつ重要なポイントがあります。ランニングフォームそのものが肉離れに影響するということです。とくに、速いスピードで走るときや急激に加速・減速するなどの局面で、骨盤や股関節・膝の使い方が不適切だと、ハムストリングスに不自然な伸長負荷がかかります。

英国のスポーツ医学誌に発表された研究(*4)では、走行時の力学的評価スコア(Sprint Mechanics Assessment Score)が高い(=理想的な動作から外れている)ほど、肉離れの発症リスクが高いと示されました。

逆に言えば、ランニングフォームを改善することは、速く長く走るために有効なだけではなく、肉離れの発症リスクを減らすこともできるはずなのです。

• オーバーストライド(過度な前方着地)を避ける
足が身体の前で着地すると、ハムストリングスに強いブレーキ負担がかかります。理想は、重心のやや下でスムーズな着地を心がけることです。

• 骨盤の安定
骨盤が前傾・後傾しすぎると、ハムストリングスの筋力を有効に使えません。骨盤ニュートラルを意識することで、コア(体幹)の安定性が高まります。

リハビリ中はランニングの強度を急に上げることはできません。スピードも距離も段階的に増やしていくことになります。物足りない気持ちや焦りにかられることも多々ありますが、じっくりとランニングフォームを見直す好機だと捉えることもできるのではないでしょうか。

参考文献:
1. An Evidence-Based Approach to Hamstring Strain Injury.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3445075/

2. Recalibrating the risk of hamstring strain injury.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32299793/

3. ハムストリングスの活動特性に基づいた肉離れ予防トレーニングの選択
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsatj/3/1/3_13/_article/-char/ja

4. Sprint running mechanics are associated with hamstring strain injury.
https://bjsm.bmj.com/content/early/2025/05/24/bjsports-2024-108600

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に電子書籍『ランニングと科学を斜め読みする: 走りながら学ぶ 学びながら走る』がある。https://www.amazon.co.jp/dp/B08Y7XMD9B 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
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