HOKAの「ダウンヒル専用ギア」。その○と×を検証してみた。
ホカ オネオネから奇想天外なトレイルランニングシューズ「テンナイン」が発売されました。
より正確に表現するならば、ホカ オネオネはこれを「シューズ」ではなく、ダウンヒル専用の「ギア」と位置付けています。
目を引くのが、尾っぽのようにびよーんと後ろにせり出した幅広のヒール部。
ホカ オネオネによると、これはあらゆる地形で安定した履き心地を実現するために、地面との接地を最大化するためのデザインとのこと。
いったいどんな履き心地なのか?
シューズ好きとしては気にならずにはいられない。
と思っていたら、実際に山で試す機会を得たので、僕が感じたこのシューズの○と×をレポートしたいと思います。
○:ハンパない安定感。下りをガシガシ飛ばせる!
ホカ オネオネのシューズの特徴として、マシュマロのようなクッション性と、メタロッカー構造により前方へとグイグイ進む推進力の高さが挙げられます。
ロードかトレイルかを問わず、ホカ オネオネのシューズを一度でも履いたことがあれば、その履き心地は実感として理解できるでしょう。
この「テンナイン」でトレイルの下りを走った印象を端的に言うと、そういったホカ オネオネのシューズの特徴がとりわけ際立ったものとして感じられました。それも、極端なまでに。
着地するとグイッと沈み込み、次の一歩を踏み出す際にポーンと弾んで前に進む。
この一連の動きにおけるミッドソールのクッション性と推進力が、チャレンジャーやスピードゴートをはじめとするホカ オネオネの他のトレイルランニングシューズよりも何倍も強く感じられたのです。
そして接地面が広いぶん、安定感の高さもケタ違い。
オフロード用のクルマやバイクのタイヤが太いのと同じ理屈で、接地面が広ければそれだけ走りの安定感は高まります。
そして安定感が高いゆえ、テクニカルな足場でなければ足元にあまり気を使うことなく、シューズ任せで安心してスピードを上げてガシガシ下れる。
ホカ オネオネが言う「飛ぶように山を駆け下る」を身をもって体験することができました。
いやはや、すごいシューズですわ。
下りが好きな人や得意な人にとって、この疾走感はたまらないはず。
なお、下りでは重心をやや後ろめにして、かかとで着地することを意識したほうが、このシューズの特性をより強く感じられると思います。
○:平地や登りは普通に走れる(歩ける)。
エキセントリックなルックスを備え、トレイルの下りでは他のシューズとは一線を画す独特な履き心地が味わえる「テンナイン」ですが、下り以外の履き心地は拍子抜けするほど「普通」。
平地や登りではこのシューズを履いていることを忘れてしまうほどです。
○:話のネタになる。
「うわ!ホカの新しいやつじゃないっすか。履いてる人、初めて見ました〜」
「お兄さん、なにその靴? かかとに何かついてるの?」
「へぇー、最近のトレイルランニングシューズってそんなふうになってるんだね」
これらは、僕が山に向かうバスの車中や登山道で、他の登山者から掛けられた言葉です(実話)。
そのたびに、「そうなんですよ、結構調子いいっすよ」と応えたり、「実はこれはですね……」と説明したりして、一期一会のコミュニケーションを楽しみました。
このように、モノをきっかけにして会話が生まれるのは、なかなか楽しいものです。
×:階段の下りがちょっと苦手。
このシューズが苦手とするフィールドは、ずばり、階段の下り。
幅が広めの階段なら特に問題はないけれど、一般的な階段だと下る際にヒール部分を引っ掛けかねず、思わぬ転倒につながりかねません。
ホカ オネオネも「ランニング以外に本製品を使用すると、バランスや機敏さが損なわれる場合がございます。そのため、階段の上り下りや運転中にこれらを使用しないでください」と注意を促しています。
×:奇異な目でじろじろ見られる。
このシューズを履いていると、他の登山者から奇異の目で見られることが多々あり、ちょっぴり恥ずかしい思いをすることも。
まあ、これに関しては先述の「話のネタになる」と表裏一体ではありますが。
×:靴箱で邪魔。
このシューズはヒール部分がびよーんと飛び出しているゆえ、とにかくでかい。
僕のサイズ(28cm)で長さは36cm、幅は18cmもある。
靴箱にぎりぎり収まらないことはないけれど、やっぱり邪魔。
×:値段が高い(3万円+税)
https://www.hokaoneone.jp/unisex-trail/tennine/1109689/
税込3万3000円。
この価格設定は、ホカ オネオネのトレイルランニングシューズのなかでもとりわけ高い。
よほど懐に余裕がある人じゃなければ、この金額を出すのはなかなか勇気が要りますね。
以上、ホカ オネオネ「テンナイン」のインプレッションでした。
ともあれ、このような挑戦的なプロダクトを、コンセプトモデルではなく、実際にマーケットに投入したホカ オネオネの姿勢に敬意を表したいと思います。
なお、今回このシューズをテストする場として選んだのが、奥多摩の雲取山。
雲取山は標高2017m、東京都最高峰の山。
奥多摩駅からバスで鴨沢まで行き、鴨沢から七ツ石山を経て雲取山山頂へ。
そして雲取山から奥多摩駅まで下る、トータル30km強のコースです。
登山の標準コースタイムは12時間30分。
雲取山山頂から奥多摩駅まではひたすら下り基調で、約20kmに及ぶスーパーロングダウンヒルが楽しめます。
そのスーパーロングダウンヒルこそがこの「テンナイン」を試すフィールドとしてふさわしいと考えた次第です。
鴨沢-七ツ石山-雲取山-鷹ノ巣山-六ツ石山-奥多摩駅(30.9km / CT12h30m)
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