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スタイリッシュに速く走りたい、すべてのランナーへ
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SPECIAL

DESCENTE GLOBAL FOOTWEAR “Triathlon Shoes PROJECT”

2020.02.28
Masataka Nakada(STUH)
Shin Kawase

スポーツアパレルの雄デサントが、シューズの雄にもなるべく本気を出してきた。トライアスロンの強豪として知られるスイスチームと正式契約し、2020年の東京オリンピックでのメダル獲得を目指す。開発しているのはブランド初のトライアスロン専用シューズ。我々編集部は、大阪・茨木にあるデサントの研究開発拠点を訪れた。

2018年7月に開設したデサントの研究開発拠点“DISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)”。外観に劣らぬスタイリッシュで洗練された内装の研究現場では、トライアスロンに不要なものはすべて削ぎ落し、一秒でも速く走るためだけの究極の一足を求めて日々研究が行われている。

最終テストの現場で行われていたこと。

我々は、デサントシューズチームの中心人物であり、企画開発担当者である林 亮誠氏(工学博士)と、来日したトライアスロン・スイスチームのエース、アドリアン選手との最終テストの現場に立ち会うことができた。

訪れたセンターで最初に行われていたのは、アドリアン選手のランニングエコノミー測定。ランニングエコノミーとは、走の経済性のことであり、ある走速度に対してより少ないエネルギーで走れるかをみるもの。一般にランニングエコノミーは、最大下のある走速度における酸素摂取量(呼気ガス分析装置によって測定される呼気中の酸素)と定義され評価されている。今回は、シューズを履き替えることでランニングエコノミーが良くなるかをデータに基づき評価していた。このテストはシューズのサンプルがアップデートされる度に行われ、ランニングエコノミーのデータに基づきサンプルの改良が繰り返し行われる。他ブランドのシューズでもテストされ、よりアドリアン選手にマッチし、より楽に速く走れるサンプルができるまで行われた。今回の最終テストでは、今まででもっとも良いデータが記録された。

次に行っていたのが、クライマートと呼ばれる人工気象室に入ってのテスト。日本国内に人工気象室がある施設は珍しく、本来はアパレルの実験用で使われているそうだ。実際に人工気象室の中で何度も走行テストを実施。そこで汗の量、足に水をかけた時の感覚など、細かい確認が繰り返し行われた。

人工気象室では、温度や湿気など天候を人工的に変えられるため、2020年8月に東京で行われるレースに備え、林氏とアドリアン選手が一緒に入って東京の夏を体感した。東京の真夏の天候設定があまりに過酷なため、アドリアン選手には走らせず、入るだけにしたという。大会の同日程同時刻で想定される最高気温と最高湿度に設定した室内で、苦痛な表情を浮かべていたアドリアン選手。テストを終えた彼に感想を聞いてみると一言「暑いだけじゃなくて、ちゃんと息ができない。クレイジーだね」と語った。東京の夏を知らない彼が、この気象を一度体験できたことは大きい。アスリートは、気温だけでなく、湿気とも闘わなければならない。それを身をもって感じることができたのだ。

Adrien Briffod(アドリアン・ブリフォ)
1994年、スイス・ヴヴェイ生まれ。10歳からトライアスロンを始め、2005年11歳でITUデビュー。2013年19歳の時にヨーロッパジュニアカップで初優勝以来、数々の大会で好成績を残す。現在、スイストライアスロン エリートメンバーとして活躍中。WTSランキング:38位(2019年12月16日時点)

次に最終の足型計測が行われていた。これはどのシューズメーカーも行っているという。手で計測して作った石こうの足型から再度計測し、より立体的な3Dデータにして最終のラスト(足型)を作ったそうだ。足の特徴とサイズを入念に照らし合わせ、アドリアン選手専用のラストがようやく完成する。

最後に行われたのがモーションキャプチャとフォースプレートを用いたランニングの測定。モーションキャプチャとは、現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術。フォースプレートは接地中に体が受ける力を計測する装置。理想的なシューズ設計をするためには不可欠な計測。DISCにはトラックを一周できるコースも設置され、研究する上で万全の環境が整えられていた。

最終サンプルのシューズを履いてのランニング測定は、複数のカメラとネットワークを繋いで行われるため、セッティングにも時間がかかる。測定前には入念に確認作業が繰り返された。そしてランニング測定前、アドリアン選手の全身に50個以上に及ぶマーカが付けられた。東京のレースで着用するスイス代表チームのウエアと最終サンプルのシューズを履いて測定がスタート。

モーションキャプチャは、体全体の動きはもちろん、各部位、関節の動きまで細かく分析することが可能。着地の仕方、着地するかかとの位置、着地してから離れるまでの時間、着地時に作用する力など入念にチェックする。60メートル走行を1本として、毎回50本位がテストされる。

デサントスタッフは、コーチングスタッフではないので、彼のフォームについてのアドバイスは一切しないのだそう。あくまでデータとしての事実をアドリアン選手に伝え、そのデータを解析してシューズの設計を微調整していく。ランニングシューズは、走行時に着地するかかとの傾きと走行中の足の傾き(プロネーション)の度合によって、その作り方が大きく異なってくる。アドリアン選手の走り方は、前足部で着地するフォアフット走法だが、最終サンプルは、ミッドフット走法(中足部)にも対応可能な走り方を選ばないオールラウンドタイプになったそうだ。

林氏は今回の最終走行テストの感想をアドリアン選手に聞く。彼は最終サンプルの仕上がりにとても満足し、安心した表情をしていた。どんなに最新機器を揃えたとしても、最終的には作り手と選手とのコミュニケーションが一番大切になってくる。その信頼関係こそが「最高のパフォーマンスを生むシューズ」になることを今回の取材で実感した。

DISCには、アパレルを中心に30人を超えるスタッフが在籍。2020年の東京オリンピックでメダルを獲得するというアドリアン選手の夢は、スタッフ全員の夢でもある。お互いの夢を達成するために今日も研究が続いている。

キーマン、デサント林 亮誠氏に聞く、誕生秘話。

2017年3月にプロジェクトチームが立ち上がり、まったくのゼロベースからスタートして約3年。アドリアン選手の最終確認も無事終えて、ようやくトライアスロン専門シューズが完成した。企画開発担当者である林 亮誠氏に誕生までの経緯を取材した。

林 亮誠(はやし りょうま)
愛知県生まれ。小学4年生でサッカーを始め、プロサッカー選手を目指す。しかし、高校2年時に自分の実力の限界を知り、サッカー部を退部。夢をサッカースパイク開発に切り替える。人の感性を基に開発を行うことで有名な信州大学感性工学科に入学。工学博士となり、2010年に新卒で株式会社デサントに入社。2年目からアンブロのMDとなり、2014年ワールドカップ時のガンバ大阪・遠藤保仁選手のスパイクを担当。高校時代からの夢を叶える。その後、ルコックスポルティフ、イノヴェイトのMDを経て、現在、デサントシューズの企画開発担当として日々邁進している。

―まず、このプロジェクトがスタートすることになったキッカケを教えてください
日本では、デサント=トライアスロンということが知られていませんが、ヨーロッパでは専門のウエアを展開しているんです。2013年には、スイストライアスロン連盟のオフィシャルサプライヤーとしてスイス代表のユニフォームを作って、ロンドンやリオオリンピックではメダルも獲得してるんです。なので2020年の東京開催を目指してシューズも一緒に開発することになりました。

―まったくのゼロからスタートしたと聞きましたが
そうなんです。色々なシューズは手掛けてきましたが、トライアスロン専門のシューズは、初めてで経験もなかったので、最初に選手の声を聞こうと思って、徹底的にアンケートを採りました。それでデータを集めて、それを徹底的に読み込んで必要な要素を抽出していきました。同時に世界と日本のトップの試合のビデオを取り寄せて何回も観て、とにかく分析しました。

―どれぐらいの期間をかけられたんですか?
アンケート、分析、ビデオというのを繰り返し1年間位やっていました。その分析したデータを蓄積すると何となくわかってきたんです。それからやっと具体的にラスト(足型)とファーストサンプルを作ることになりました。

―これがラストとファーストサンプルなんですね
そうです。今見るとちょっと恥ずかしいんですけど、これがプロトタイプになります。ここからまたスイスに出向いて、スイスの選手に確認しに行って改良していったんです。およそ2年位かけてサンプルを作っては修正、作っては修正して…試行錯誤を繰り返しながら、自分がイメージした完成形に近づいてきた感じです。トライアスロン専門シューズなので、10キロをベストで走れればいい。極論を言うと10キロしか持たないシューズでいい。その究極を目指してやっていました。

―それからやっと色々なテストを開始したんですね
そうなんです。まずは、選手が履いている靴をもらってきて。あと、世界トップランクの選手が使用しているシューズを購入してテストしていきました。夏開催のトライアスロンの大会を見に行くと、選手はとんでもない量の水を頭からかけて、肩から足元まで、びしゃびしゃな状態なんです。DISCにはアパレルの実験で使用する人工降雨機がある。比較的珍しいとされるこの機械を使えば、一定の雨を降らせることができる、と思ったんです。これは使えるなと思って、80ミリで何分間降らせたらどうなるんだろうか? 50ミリだったら? という感じで実験しました。

―このテストのゴールは何だったんでしょうか?
最初のテストは水分を含む量、重量比。80ミリの雨を1分降らせる前の重量から何グラム後でどれ位増えてるかっていうのを何度も何度もやりました。それである程度の結果が出たのですが、重量比較は公的なデータでは発表できなかったんです。なので「乾燥性」で比較することにしました。水に30分間つけて何分後にどれだけ水が抜けてるかっていう試験を行ったんです。これって実はアパレルの試験方法なのですが、シューズに応用してくれってお願いしてDISCでやってもらったんです。その結果、世界トップランクの選手が使用しているシューズの中でも一番速く乾いたんです。このテストはデサントじゃないとできなかったので、デサントらしいシューズが完成した瞬間でしたね。既存のトライアスロン用シューズの中で「水に濡れても、一番軽く、一番速く乾くのがデサントのトライアスロンシューズだ」と胸を張ってスイスチームに伝えることができました。

―アドリアン選手と契約した経緯を教えてください
うちの販促担当が、年に1回のスイス代表選手が集まるタイミングで主要選手にトライアスロンシューズの資料を渡して話をしてくれたんです。最終サンプルが完成する前の段階で。そしたら、一番最初にリアクションして、コンタクトを取ってくれたのがアドリアン選手だったんです。2019年1月にアドリアン選手から「最終サンプルはいつできますか?」と言われた時はまだ最終段階に至ってなかったのですが、また彼から連絡があって「スイス大会に履いて出場したいので、すぐに送ってほしい」と(苦笑)。本位ではなかったけど、しょうがなく途中段階のサンプルをスイスに送ったんです。そしたらまさかの優勝だったという(笑)。

May 25, 2019 ITU WORLD TRIATHLON LAUSANNE Photo: Kiristen

―途中段階のサンプルで優勝するとはすごいですね
本当にそうですよね。でも、デサントのアパレルの技術の高さにアドリアン選手が惚れ込んでいて、だから靴も絶対いいはずだと思ってくれてる節があったみたいです。なので運命的に出会って、相思相愛で、じゃあ一緒にやろうかみたいな感じになりました。そこから彼と半年近く色んなコミュニケーション取って作ってきた感じですね。僕もスイスに会いに行って話をしたりとか。

「ちょっと痛い」って言ってくれたら、そこに大ヒントがある。

―選手とのコミュニケーションで一番大切なこととは何だと思いますか?
いわゆるコミュニケーションを取りながら、シューズの精度を上げていくわけですけど、僕は選手が求めているものが何なのかっていうことをとことん聞きますね。こちらから提案をするよりもまずは聞く。そこに答えが絶対あるので、それを自分の目で見に行って、その後に話をする。そこで初めて提案するみたいな感じですね。僕はとにかく感覚の情報をすごく大事にしていて「ちょっと痛い」って言ってくれたら、そこに大ヒントがあるんですよ。「何か違う」とか、「何か、こうなんです」とかっていう、相手のフィーリングっていうんですかね。言葉で言い表せない何かを大事にするのは、ガンバ大阪の遠藤選手と一緒にやってきた経験からなんですけど。

―テスト結果をプロダクトに反映する上で一番難しい所、大切なこととは?
反映するときに一番難しいところっていうのは、その手法が正解か誰も分からないところですね。正解かどうかが分からないので、他の方法はないかとか、それをとにかくとことん考え抜く。でも、スポーツシューズ業界では超弱小ブランドなので、まだできないことのほうが多いんです。でも、その中でいかに知恵を絞るのかだと思っています。選手がそこまでやる? って思うような所まで徹底的に考えますし、チーム全員に相談をします。中でもデザインチームとはとことん議論しますね。

―デザインチームと開発チームは、ぶつかって論議になると他メーカーさんからもよく聞きますね
僕らも同じでデザインチームスタッフとは本当によく言い合いをしますし、何度もケンカしました、殴り合い直前まで(苦笑)。今回はやってないですけど(笑)。でも皆それだけ真剣に作っているんです。

絶対に期待を裏切る訳にはいかなかったんです。そのプレッシャーとの闘いの日々でした。

―最終サンプルが完成。率直な感想を教えてください
そうですね…。達成感というより、やっとここまで来られたなって、ホッとする気持ちのほうが強いです。最終的には、デサントならではのシューズに仕上がったと思います。ヨーロッパでは、デサントのアパレルが既に信頼を勝ち得ていたので、シューズも当然それを求められるし、絶対に期待を裏切る訳にはいかなかったんです。そのプレッシャーとの闘いの日々でした。

―今後の目標と未来について教えてください
直近では東京の大会でスイス代表が表彰台に上がること。その次は、トライアスロンシューズのネクストを作ることです。それは、20キロ、40キロに耐えられるトライアスロン専門シューズ。これが完成すると、ハーフマラソン、フルマラソンのトップランナーが履ける本格的なパフォーマンスランニングシューズがデサントから提案できるんです。そうすると、多くの競技、もっと多くの人に知ってもらえるかと。なので競技用であれば、とにかくアスリートファーストでアスリートに寄り添うこと。ライフスタイルであれば、コンシューマーファーストでユーザーに寄り添うっていうか、一緒に歩んでいくようなシューズを作っていきたいと思っています。

―アドリアン選手へ一言
「一緒に東京で見たことない景色を見ようよ」って、彼には伝えました。それに対して彼は、笑って「了解!」とジェスチャーしてくれました。彼が表彰台に上がる姿を見たら、きっと泣いてしまいますね(笑)。

 

“Triathlon Shoes PROJECT”、その完成品がここに。

―それでは最後に、実際のシューズについて教えてください。アッパー素材、アッパーの特徴は?
このシューズの大きな特徴としてアッパーの外側と内側をひっくり返した構造にしてあることです。トライアスロンで使用する時は裸足で履くため、少しの凹凸で足が痛くなり、それがストレスになり、怪我にもなるんです。だから、逆転の発想で本来内側にあったのをすべて外側に反転させてあります。

レーザーカットしてテープで接着縫製する縫い目がない構造は、水沢ダウンやオルテラインと同じ考え方を活かして作られています。そして素材は、エンジニアドメッシュを採用してあるので排水性がよく軽く仕上がっています。その排水性は、DISCの人工降雨機によって何度もテストを繰り返し完成させています。

―ミッドソールについて教えてください
デルタシステムという、3つの異素材をコンビネーションすることによって、高い推進性を得るというコンセプトで構成されています。着地の際に反発して推進力があるカルボという曲がるプレートが入っていて(カーボンは曲がらない)、全接地型になっているので、前足部で着地するフォアフット走法でも、ミッドフット(中足部)でも走り方を選ばないオールラウンドタイプなのが特徴となっています。

―アウトソールとインソールついて教えてください
イノヴェイトで使われているグラフェンをトライアスロン用に改良したものになります。グラフェンとは、2010年度のノーベル物理学賞を受賞した新素材で、柔軟かつ伸縮性があり、強さが鋼鉄の100倍もある、今もっとも注目されている素材のひとつです。普通であればもっとラバーを分厚くしなければならない所にグラフェンを配合することで、すごく薄くできる。イコール軽くできるんです。

インソールは、反発性を出しながら、ストレスのない生地にしています。さらにパンチングを開けることで、上から水が入ってもインソールの下に流れて、アウトソールに抜けていく構造になっています。「勝つための一足」という目的で作ってあるのでトライアスロン、トライアスリートが求めるものが全部入った一足に仕上がっていると思います。

DESCENTE GLOBAL FOOTWEAR “Triathlon Shoes
“DELTA TRI OP”


デサントトライアスロンシューズ
“DELTA TRI OP”(RED)
¥18,000+tax


デサントトライアスロンシューズ
“DELTA TRI OP”(BLK)
¥18,000+tax


デサントトライアスロンシューズ
“DELTA TRI OP”(NVY)
¥18,000+tax

編集後記
デサントのシューズチームがついに動き出した。トライアスロンの強豪として知られるスイスチームと契約し、2020年の東京オリンピックでメダル獲得を目指す。その情報を聞いた時、やっとこの時が来たかと胸が躍った。なぜなら、日本が世界に誇る三大スポーツ用品メーカーのアシックス、ミズノ、デサントの中で、唯一、パフォーマンスシューズの開発をしていなかったデサントが本格的に参入してきたからだ。デサントのテーマは、“Design that moves”(あなたを動かす、すべてになる)。アスリートファーストの考えのもと、取材したDISC(研究開発拠点)では、アスリートと共に一秒でも速く走るためだけの最終テストが行われていた。そこには一切の妥協はなく、スポーツアパレルの雄がシューズの雄にもなるべく本気を出す泥臭く必死な姿があった。構想から丸3年。ついに完成したプロダクトは、世界タイトルマッチ前のボクサーのような、無駄のない究極のフォルム。まさにこれが極限の機能美なのだろう。それは、2008年にスタートした水沢ダウンを初めて見た時の衝撃と同じだった。デサントにしかできない、デサントならではの一足だと感じた。まだまだ未知数ではあるが、夏のお台場が楽しみだ。
SHOES MASTER & Runners Pulse
プロデューサー
河瀬 真

INFORMATION

DESCENTE TOKYO
03-6804-6332

www.descente.com

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