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COLUMN

Running Gear Council-ランニングギア評議会-
第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

2025.10.23
MASAHIRO MINAI
MASAHIRO MINAI

スポーツシューズに関連したビジネスに従事して36年になるRunners Pulseの南井編集長が、ランニングギアをマニアックに考察する連載コラム「Running Gear Council-ランニングギア評議会」。第11回のテーマは、デビュー以来数多くのランナーの自己記録更新に貢献してきた、ASICS<アシックス>のMETASPEED(メタスピード)シリーズの開発担当者に、最新モデルであるMETASPEED RAY、METASPEED SKY TOKYO、METASPEED EDGE TOKYOに関する開発ストーリーを聞いた。

Running Gear Council-ランニングギア評議会- 第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

アシックスのC-PROJECTは、「速く走ること」を徹底的に追求するために結成されたチームである。創業者の鬼塚喜八郎氏の言葉である「まず頂上を攻めよ」の「頂上(Chojo)」から命名され、アスリートのパフォーマンス最大化を目指し、既成概念にとらわれることなく、スピード感をもって、アスリートと連動したプロダクトの開発とサポートを行ってきた。そして2021年、他ブランドの躍進によって、かつてアシックスが高いシェアを誇っていたトップレベルのランナーのシェアを奪還すべく、C-PROJECTによるプロダクトがリリースされた。それがMETASPEEDである。ストライドランナー向けのSKY、ピッチランナー向けのEDGEが用意され、その高い走行性能もあって、同シリーズはトップランナーの間で急速にシェアを取り戻したのはご存じの通り。モデルチェンジによりMETASPEED SKY+、METASPEED EDGE+、METASPEED SKY PARIS、METASPEED EDGE PARISとモデルが進化し、今シーズンは、METASPEED RAY、METASPEED SKY TOKYO、METASPEED EDGE TOKYOがリリースされ、これまでと同様に良好なセールスを記録。世界陸上では、女子マラソンの小林香菜選手がMETASPEED EDGE TOKYOを履いて7位入賞。注目を集めることに成功したが、これらのプロダクトの開発を担当した立野謙太氏にいくつかの質問を投げかけた。

Running Gear Council-ランニングギア評議会- 第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

―今回のMETASPEED SKY TOKYO、METASPEED EDGE TOKYO、METASPEED RAYの開発コンセプトを教えてください。

立野謙太氏(以下立野):METASPEED SKY TOKYO、METASPEED EDGE TOKYOに関しては、前作のパリシリーズをベースに、軽量性とエナジーリターンの向上をコンセプトにしたプロダクトとなります。数多くのアスリートの記録を支えてきたパリシリーズの基本構造は継承しつつも、さらに効率的な走りを体現したのがMETASPEED TOKYOシリーズとなります。METASPEED RAYについては、軽量性に特化して設計した新しいアイテムになります。こちらはさまざまなランニングスタイルがある中で、軽量性を追い求めるアスリートに向けて、我々はどうやったら軽くできるかということを徹底追求して開発したコンセプトのプロダクトとなります。

―今回登場の3モデルがターゲットとしているランナーをそれぞれ教えてください。

立野:すべてエリートアスリートを対象に開発しています。METASPEED SKY TOKYOは、より大きなストライドでスピードを上げていくランナーに向けて。METASPEED EDGE TOKYOは、ピッチを高めながらペースアップしていくランナーに向けて。そしてMETASPEED RAYについては、先述の通り軽量性を特に求めるランナーに向けて開発しています。我々アシックスの強みは、アスリートが求めるさまざまな選択肢を提供している点で、アスリートがシューズに合わせるのではなく、アスリートに寄り添った製品提供を日々考えています。

Running Gear Council-ランニングギア評議会- 第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

軽量性を特に追求し、片足約129g(US9/ 27.0cm)を実現したMETASPEED RAY。

Running Gear Council-ランニングギア評議会- 第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

ストライドランナーに向くMETASPEED SKY TOKYO。個人的には足抜けのよさが特に気にいった。

Running Gear Council-ランニングギア評議会- 第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

ピッチランナーにはMETASPEED EDGE TOKYOが最適。前方へのスムーズな推進力が感じられる1足。

―前作のMETASPEED SKY PARIS、METASPEED EDGE PARISと比較して、特に機能性がアップしているところを教えてください。

立野:新素材のFF LEAPフォームをミッドソールに使用することで、まず軽量性が向上しました。これだけ軽量化が進んでいるマラソンシューズ市場でも、約170グラムというところで、前作のパリシリーズに比べても約15グラムの軽量化を実現している点、そしてエナジーリターンに関しても数値ベースで向上しており、前作と比較してSKYで約18.8%、EDGEで約21.4%アップしています。それに加えて、FF LEAPとFF TURBO PLUSという2種類のミッドソール素材を組み合わせて使用することで、これまでの構造を最大限に生かせるようになったと思います。

―ミッドソールの優秀さに注目が集まっていますが、個人的には脚力を効率よく路面に伝えてくれるアウトソールのグリップ性の高さにも同じくらい注目しています。開発秘話などありましたら教えてください。

Running Gear Council-ランニングギア評議会- 第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

立野:おっしゃる通り、アウトソールのグリップ性はとても重要です。アウトソールを開発する際に、どの材料がいいかということをいろいろと検証しているのですが、マラソン競技では給水エリアもありますし、雨のレースもあるということで、濡れた路面でもしっかりとグリップしてくれるということが、パフォーマンスにとっては重要です。開発当時、マラソンレーシングシューズでは使っていなかったのですが、山を走るトレイルランニングシューズで使っていた材料に着目しました。やっぱりトレイルランニングは岩場であるとか、濡れたところを走っていくので、そういったサーフェスでもグリップ性が求められるということで、とても粘っこいと言いますか、粘性の高い材料を使っていたのです。それをマラソンシューズに適用したらどうなるだろうかということから採用を検討したのですが、マラソンシューズの場合は、トレイルランニングシューズのように高いラグを配することは重量の増加になってしまいますし、接地面積が減ってしまうので、フラットなパターンにしつつ、穴を全面に配置することによって、地面に対して変形して噛んでくれるようなグリップ性を発揮することが可能となりました。このように、材料の選択とどんな形状にするかということをいかに組み合わせるかを試行錯誤することによって、これまで以上に高いレベルのアウトソールのグリップ性を発揮できるようになりました。

Running Gear Council-ランニングギア評議会- 第11回「開発担当者に最新METASPEEDシリーズの開発秘話を聞いた!」

アウトソールは全面に穴を配したパターンを採用。写真はMETASPEED SKY TOKYOのアウトソール。

―3モデルを開発するにあたり、苦労した点がありましたら教えてください。

立野:私自身が前作、前々作も担当していて、昨年METASPEED SKY PARIS、METASPEED EDGE PARISを自信を持って、「これが完璧だ!」という気持ちでリリースしている状況で、さらに高いレベルを目指すことは容易でなかったです。まず、走行効率性を向上させるためには軽量化から着手することにし、アッパーに使用されている糸の分子量から見直すことになりました。今回使用しているモーションラップ3.0というアッパーは、従来のアッパーよりも分子量を増やすことで、同じ強度でも糸を細くすることが可能になりました。そのメリットは、さらなる軽量化の実現、通気性の向上、生地が薄くなることによるフィッティングの向上が挙げられ、こういった点は苦労しましたが、だからこそ本当に納得できるアッパー素材が開発できたと思っています。

―こうした過程でやりがいのようなものはありましたか?

立野:そうですね。苦しいなかで「何を次のステップにするか?」ということを自分だけでなく、さまざまな分野のスペシャリストと相談しながら改良の余地を見つけ出し、改善策に到達させるのはやりがいがありました。個人的には1モデルだけでなく、3モデルを同時に開発するという点も苦労したところです。

―これまで各ブランドのトップレーシングモデルを履いてきましたが、今回の3モデルは、それらと比べても走行性能は高いと思います。それでありながら、価格は抑えられています。これは会社としての方針ですか?

立野:そうですね。我々アシックスが「より多くのアスリートに最適な選択肢を届けたい」という姿勢の表れであり、単なる価格競争ではなく、機能価値とブランド哲学の両立を目指した方針に基づいています。

―なるほど、使いたい人に届けられるプライスということですね。

立野:履きたいけど値段が障壁となって履けないという状況にならないような価格設定と機能価値のバランスを目指しています。

―今日はお忙しいところありがとうございます。一昔前ですが、スポーツシューズのプロダクトを担当していた人間としてとても興味深いストーリーをお聞きすることができました。

Masahiro Minai
南井 正弘 フリーライター、ランナーズパルス編集長
1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年勤務後ライターに転身。「フイナム」「価格.comマガジン」「モノマガジン」「SHOES MASTER」「Beyond Magazine」を始めとした雑誌やウェブ媒体においてスポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズに関する記事を中心に執筆している。主な著書に「スニーカースタイル」「NIKE AIR BOOK」「人は何歳まで走れるのか?」などがある。「楽しく走る!」をモットーに、ほぼ毎日走るファンランナー。ベストタイムはフルマラソンが3時間50分50秒、ハーフマラソンが1時間38分55秒。
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