トレイルを掃除しながら進む、というマニアックな体験。
普段何気なく走っているトレイル。名立たる名峰から近所の低山まで、大抵の場所はきれいに整備され、ゴミもほとんど落ちていない。ゴミとは少し違うが、倒木や大量の落葉などもトレイルを塞ぐ要因となる。普段「何気なく走れている」のは、誰かが整備したり、掃除したりと、トレイルを守っている人がいるからなのだ。
新緑の眩しい5月中旬、こんなイベントに参加してきた。「南アルプスのクラシックルートをお掃除しながら進むちょっとマニアックな企画」。少しでもお役に立てれば幸いだ。
今回のイベントは、山梨県韮崎市にある甘利山グリーンロッジをベースに、2日間に渡って開催。初日は、山梨百名山の千頭星山(せんとうぼしやま・2138.5m)を経由して大ナジカ峠まで行き、帰りは奥甘利山(1843m)、甘利山(1731.4m)を経由してロッジへ戻る約12km、獲得標高約1,100mの行程となる。
朝8時30分、初日参加者約10名が挨拶を交わし、軍手とビニール袋を手にしてスタート。前日までの天気予報では雨が強くなることも予想されていたものの、スタート時には雨もほとんど止み、歩き始めてすぐに曇りへ。今回の目的はあくまでも「お掃除」なので、基本は歩きになるのだが、雨が降らないだけでだいぶ気持ちが楽になる。
先頭を歩くのは、韮崎と言えばこの人、山岳アスリートのヤマケンこと山本健一さん。南アルプスフロントトレイルのイベント以来なので約半年ぶりの再会。今回も爽やかな笑顔と軽妙なトークで、参加者を飽きさせずに楽しませてくれた。
雰囲気は和やかなものの、かつてのスキー場跡地から大西峰、千頭星山までまずまずの登りの連続。この辺りはトレイルもきれいでゴミもほとんど落ちていないため、ひたすら前進することに集中する。足元もそれほどぬかるんでいない。しかも、週末にも関わらずすれ違う人もほとんどいなかったので、マイペースで進めるのはありがたい。
スタートから約1時間。大西峰を過ぎる頃には時折空に青い部分も見え始め、眼下には雲海も広がっている。こんなところで雲海まで見れるなんてと、予想以上に回復してくれた天候に感謝した。

荒れた急斜面もガシガシ進む。途中天候も回復し、雲海もきれいだった。
千頭星山までは比較的ハイカーも多いそうだが、そこから先はさらに人も少なく、道も険しくなる。ロープ伝いに降りていく崖のような急斜面や、一見さんでは見落としそうになるような細いトレイルを、ヤマケンさんのガイドで進んでいく。途中古くなった案内板の向きを確認したり、時には書き直したり、いずれこのトレイルを歩く人たちの道標となるべく、しっかりお掃除。ゴミは途中少なかったのだが、それでも昭和時代のものとおぼしき空き缶を数個回収して帰路についた。
この復路の登り返しがまたきつかったのだが、ロッジで待っているカレーを餌に力を振り絞る。また明日も同じくらいの行程となることは考えないようにして、帰りを急いだ。

2日目のランチはお手製サンドイッチ。ハム、チーズ、ポテサラ、あんバターなどなど、思い思いの具材で作成。

夜は甘利山の東屋まで夜景探索へ。甲府盆地の美しい夜景に感動。
2日目の朝は早い。4時30分に玄関に行くと、すでに参加者は準備を済ませ、全員が集合している。この日から新たに4名が加わり、まずは最初の目的地、甘利山でのご来光を目指して出発する。天気は快晴。絶好のお掃除日和だ。
この日はクラシックルートを進むため、お掃除もより本格的に。各人熊手やノコギリを手に進む。今日の目的地は、前日も通った分岐点となる大西峰を右手へ進み、御所山方面へ。そこから鳳凰三山の登山口の一つ、青木鉱泉までの往復約15km、獲得標高約1,500mの行程となる。
前日とは打って変わって、大西峰を少し進むだけでトレイルは落ち葉でいっぱいになり、所々に小さな倒木が行く手を塞いでいる。これでも、少し前にヤマケンさんとロッジの管理人さんとで草刈りに来ていたというから、何もしなければどれだけ荒れてしまうのか。けれど、十数人がいれば、落ち葉を脇にどけるのも、小さな倒木を切って移動させるのも早い。御所山までの比較的フラットなトレイルも順調にきれいにしつつ進み、向かいに見える鳳凰三山の農牛を眺めながら、「明日は実家の田植えの手伝いだ」と話すヤマケンさんの話に耳を傾ける。普段走るのとはまた違った、ゆっくりペースで進むのも悪くない。
御所山から青木鉱泉までは、一気に約700m下る急坂で、そこもお掃除しながら進む。落ち葉を掃き、時にトレイルを踏み固めながら歩く。30年ほど前は、このコースが高校のインターハイでも使われていたというから驚く。

2日目は天気も快晴。幸先よくご来光も見れました。

倒木をどかし、落ち葉を掃きながら道をお掃除。

鳳凰三山の登山口の一つ、青木鉱泉で折り返し。ここからの帰り道もエグい上りに
青木鉱泉で小休止し、熊手やノコギリを預け、いざピストン。今度は700m以上の登り返しだ。慎重に落ち葉の上のトラバースを進み、崖のようなトレイルをひたすら上る。行きに掃除してきた道だけに、間違いなく歩きやすくなってはいるものの、ガシガシ進むとはいかない。それでもなんとかみんなに付いていくことができたのは、この日に備えて塔ノ岳などで何度か練習しておいた成果だろう、と思っている。行っててよかった。
時刻は14時過ぎ。再びロッジに帰ってくると、みな疲れた中にも充実感が漂う満足そうな表情を見せている。今回は走るのではなく、「掃除しながら進む」ことがメインだったため、所謂トレイルランニングではなかったが、自然の中で遊ぶためにフィールドをきれいにする、その手伝いができたことはとてもいい経験となった。自分たちのフィールドをきれいに。富士山や鳳凰三山、八ヶ岳という遠くに見える景色の美しさと、足元に延びるトレイルの美しさは、きっとリンクしているのだろうと思った。

甘利山山頂付近は、6月上旬にはツツジで一面真っ赤に染まるという。ぜひ遊びに行ってみては。