Running Gear Council-ランニングギア評議会-
第4回「アメリカにおけるブルックスのポジショニング」
スポーツシューズに関連したビジネスに従事して35年になるRunners Pulseの南井編集長が、ランニングギアをマニアックに考察する連載コラム「Running Gear Council-ランニングギア評議会」。第四回のテーマは、ランナーから圧倒的な信頼感を獲得することに成功している「Brooks<ブルックス>」のアメリカ合衆国におけるポジショニングを紹介したいと思う。
Brooks<ブルックス>は、1914年にペンシルベニア州で創業したブランド。1970年代から1980年代のジョギングブームの際には、ヴィラノバやヴァンテージといったシューズが、業界屈指の機能性に優れた存在として高い評価を得ることに成功していた。<ブルックス>は、かつては総合スポーツブランドとして、ドミニク ウィルキンス(アトランタ ホークス)らが愛用したバスケットボールシューズ、ミッキー マントル(ニューヨーク ヤンキース)が着用したベースボールシューズも展開していたが、2001年よりランニングシューズ専業ブランドとなった。
自分は、2007年の12月より海外マラソンに積極的に参加するようになったが、その際に思ったのは、「<ブルックス>のランニングシューズを履いているランナーが多いなぁ…」ということ。特にレース時の着用率が高く、当時日本ではあまり目立たない存在だったので、不思議に思ったものである。
2012年になると、日本国内の代理店に変更があり、東京マラソンエキスポに出展するなど、日本でも徐々に知名度は上がっていった。この頃に日本で特にポピュラーだったのは、人間の自然な足の動きを妨げないナチュラルランニングシューズである「PURE PROJECT」のコレクション。他ブランドと差別化できる製品群は良好なセールスを記録した。2020年春夏シーズンからは、伊藤忠商事が日本市場における独占販売権を取得し、アキレス株式会社を通じて販売されることに。これ以降、従来よりも日本市場における存在感が増すこととなった。
アメリカにおける<ブルックス>のポジショニングはトップレベルにある。
現在の日本市場における<ブルックス>は、ゴーストシリーズ、グリセリンシリーズの成功もあって、着実にシェアを向上させていると思う。しかしながら2023年9月、2024年4月とアメリカ西海岸を訪れると、日本における<ブルックス>の地位はまだまだと言わざるを得なかった。アメリカにおける<ブルックス>のポジショニングは、トップレベルにあるのだ。「Road Runner Sports」「DICK’S Sporting Goods」「REI」といった主要店舗においてメインで展開されており、フットウェアのみならず、アパレルもコーナー展開されることも珍しくない。さらにアナハイム、サンタモニカ、ダウンタウンを走った際に、ランナーの足元をチェックすると、<ブルックス>の着用率は1位か2位だったのである。
着用アイテムでは、日本と同様にゴーストシリーズ、グリセリンシリーズがポピュラーだが、アドレナリンGTSも同じくらい見かけ、このあたりは日本とは異なる。ランニングウェアでは、ブランドロゴが小さくプリントされたベーシックデザインのシングレットやウインドジャケットを着ているランナーが多かった。サンタモニカの「Road Runner Sports」でスタッフと話す機会があったが、彼曰く「<ブルックス>のランニングシューズは基本に忠実で、奇をてらっていないから安心してランナーに薦めることができます。あと、走行性能に優れていることはもちろんですが、アウトソールやミッドソールの耐久性が高いところもいいですね。他のブランドでは期待したよりも耐久性が無く、シューズが足に馴染んだころにアウトソールが寿命を迎え、ユーザーをがっかりさせてしまうこともあるので」と語ってくれた。個人的にも<ブルックス>のランニングシューズの耐久性の高さに好感を持っていたが、本国アメリカでもその点は高く評価されているようだった。そして、この満足度の高さが、「一度<ブルックス>のランニングシューズを購入すると、次もその次も<ブルックス>を買ってくれるということが珍しくありません」と、前述のスタッフが言っていたように、一度購入するとロイヤルカスタマーになりやすいようだ。こうした点がアメリカにおいて、ランニングスペシャリティストアと呼ばれるランニング専門店におけるシェアNo.1に輝いている秘密なのかもしれない。