Running Gear Council-ランニングギア評議会-
第2回「名品となる予感」
スポーツシューズに関連したビジネスに従事して35年になるRunners Pulseの南井編集長が、ランニングギアをマニアックに考察する連載コラム「Running Gear Council-ランニングギア評議会」がスタート。第2回のテーマは、過去の名作を思い返しながら、ニューバランスのFresh Foam X 1080 v13のことを語る。
スポーツシューズに関連した仕事に従事して35年以上が経過した。その間にパフォーマンス、カジュアル合わせると1000足を超えるシューズを履いてきたが、そのなかでも「これは自分の足にピッタリ!」「自分のランニングスタイルと素晴らしくマッチしている」といった靴がいくつか存在している。順に挙げると、Reebok<リーボック>のクラシックレザー、ASICS<アシックス>のGT2130 NEW YORK、NIKE<ナイキ>のルナグライド、ALTRA<アルトラ>のインスティンクト3.0、<ナイキ>のズームフライ(2017年リリースモデル)あたりだが、2016年にHOKA<ホカ>を擁するデッカーズの本社併設ショップで購入したクリフトン3もそのひとつである。クリフトンは2014年に初代モデルがリリースされたが、その特徴は従来の<ホカ>の大きな特徴である極厚ミッドソールと、一般的なランニングシューズの中間の厚さのミッドソールを採用していたことである。このスペックにより「<ホカ>のシューズはさすがに分厚過ぎる…」といったランナーの取り込みを狙ったシューズであったが、正直言うと第2弾までは成功とは言えなかったと思う。しかしながら第3弾のクリフトン3は、マシュマロクッショニングと謳われた優れた走行性能だけでなく、その完成度の高いアッパーデザインもあいまって、ワールドワイドで良好なセールスを記録。日本でもRunners Pulse Vol.03の表紙を飾ったブラック/ホワイトのカラーリングを筆頭に大人気に。ランナーのみならずストリートシーンでもポピュラーな存在となった。現在は第9弾モデルのクリフトン9がリリースされているが、同時に展開されているクリフトン L スエードなどは、クリフトン3のデザインをベースにしていることからも、その完成度の高さが理解できるだろう。
どうして急にクリフトン3のことを語りたくなったかというと、最近履いたNew Balance<ニューバランス>のFresh Foam X 1080 v13が、クリフトン3を最初に履いて走ったときにそっくりだったから。それは<ホカ>がマシュマロクッショニングと謳うソフトなクッショニングだけでなく、アッパーの優しく足を包み込むような感覚、スタイリッシュなデザインも似ていたのである。最初に履いたのはメディア向けイベントであったが、それ以来ヘビーローテーションで履くことになり、この1か月で最も着用回数の多いランニングシューズとなった。このシューズの履きやすさに魅了されたのは、自分だけでなく、フイナムの山本氏、ビームスの牧野氏といったランニングシューズに関して一家言あるランナーからも高い評価を得ることに成功している。
ちなみに1080のシリーズだが、そのモデル名が示すように13代目。2011年に初代モデルが登場して以来、アメリカ本国を始めとして各国で良好なセールスを記録してきたが、日本の市場ではそれほど目立った存在とは言えなかった。ここ最近のv10、v11、v12も履いていて、個人的にはいい靴だと思ったが、どちらかというと走り心地にインパクトのあるFuel cellのシリーズの陰に隠れていた印象があった。しかしながらFresh Foam X 1080 v13は、前述のように日本でも一躍注目される存在となっているし、メディア向けプレビューで紹介されていた2024SSのラインアップでも、「確実に売れそう!」と思えるカラーリングが3色展開予定。デビューから13代目にしてブレークの予感がし、のちに名作と呼ばれるような存在となる気がする。それは先日行われた、結成16年以上の漫才師を対象にした新たな賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~』で優勝したギャロップや準優勝のマシンガンズに似ており、実力のあるものは、いつかは評価されるのだろう。