長距離ランナーにとっての筋トレとは。

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、長距離ランナーにとっての筋トレについて。パフォーマンス向上のためには筋トレも大切ですが、では、どのようなトレーニングが効果的なのでしょう。近年発表された論文を交えて、具体的な方法をご紹介します。
「長距離ランナーに筋トレは必要か?」と問われて、明確に「不要だ」と答える指導者はさすがにもういないと思います。走るための原動力は心肺能力と筋力。その筋力を効率よく高めるために筋トレは有効な手段だ、という原則自体は広く世間で認知されるようになりました。
学術的な分野においても、筋トレが長距離ランナーのパフォーマンスを向上させる効果があることは、さまざまな研究で明らかになっています。2024年に発表されたレビュー論文(*1)では、「重い重量を用いた筋力トレーニングは中・長距離ランナーのパフォーマンスを向上させる」と結論で述べています。
それでも、実際に筋トレを導入するとなると、その種類や方法については、まだ議論の余地があります。一般的によく目にするのは、「長距離ランナーに大きな筋肉は必要ないし、体重が増えることは不利でもある。それよりも持久力をつけるために、筋トレの重量はほどほどにして、自重を使うか、あるいは低重量高回数が向いている」といった説明です。
理にかなった説明だと思いますし、原則としては間違っていないとも思います。しかし、より具体的な筋トレの方法論に踏み込むと、長距離ランナーと筋トレの関係について、従来のイメージを覆すような研究をいくつか見つけることができます。
筋トレの重量と回数に関する誤解。
話を進めるために、ごくごく簡単に定説を説明します。筋トレで挙げる重量と回数、そしてセット数を決める際は、「瞬間的パワーをつけるなら高重量低回数、持久力をつけるなら低重量高回数」の原則を具体的な数字に置き換え、概ね下記のようなメニューが選ばれます。
<瞬間的パワーの向上が目的、スプリンター向け>
高重量低回数(最大挙上重量の100~80%の重量で1~3回挙上)を1セットとし、セット間の休息を長く(2~3分)取り、1回のトレーニング内で3~6セット繰り返す。
<筋持久力の向上が目的、長距離ランナー向け>
低重量高回数(最大挙上重量の65%以下の重量で12~20回挙上)を1セットとし、セット間の休息は短く(1分以内)して、1回のトレーニング内で2~3セット繰り返す。
ところが、筋トレの重量・回数と筋力向上効果はあまり関係がない、と結論づけた研究(*2)があります。
この研究では11人の若い男性(25歳前後)を被験者に選び、12週間に渡って週3回の筋トレを行ってもらいました。その内容は膝を伸ばす動作で、主に大腿四頭筋(太股の前部にある筋肉)を鍛えるレッグ・エクステンションというマシンを用いた種目です。

左:”Leg-extensions-2-672×1024” by Everkinetic is licensed under CC BY-SA 3.0.
右:”Leg-extensions-1-672×1024” by Everkinetic is licensed under CC BY-SA 3.0.
この研究のユニークな点は、右脚と左脚で重量と回数を極端に変えたことです。片脚は最大挙上重量の15.5%で1セット36回(低重量高回数)、もう片脚は最大挙上重量の70%で1セット8回(高重量低回数)、これらを交互に合計10セット(片脚5セットずつ)のレッグ・エクステンションを行うという方法です。
その結果、どちらの脚にも同じような筋肥大効果がありましたが、筋力の向上率には差が生じました。高重量低回数のトレーニングを行った方の脚がはるかに強くなっていたのです。
つまり、低重量高回数で筋トレを行うと筋肉量は増えますが、筋力そのものを向上させる効果は小さくなるということです。極端に言えば、体は大きくなっても、力は強くならないということですので、それではランナーがせっかく筋トレを行う意味も小さくなってしまいます。
同じく「レッグ・エクステンション」が使った別の研究(*3)もあります。こちらは両脚でこの種目を行い、ただし18人の被験者らのうち半分を高重量低回数グループに、残り半分を低重量高回数グループに分けました。
高重量低回数グループは最大挙上重量の80%、一方の低重量高回数グループは最大挙上重量の30%を1セット内で挙げられなくなるまで行い、それを3セット繰り返すというものです。週3回のセッションを10週間繰り返して、両グループの筋肥大効果を比較しました。
10週間の観察期間が終わると、どちらのグループにも太股の筋肥大効果が認められました。その筋肥大率にはグループ間で有意な差が生じませんでした。つまり、重いモノでも軽いモノでも、それが挙げられなくなるまで挑む限りは、筋肉は同じように大きくなるということです。
筋肉が大きくなれば、体重も増えます。「体重を増やしたくないから」という理由で軽いモノの筋トレを選んでも、あまり意味はないということです。
ランナー向けの筋トレ種目。
筋トレの種目は大きく分けて、専門のマシンを使用するタイプか、あるいはバーベルやダンベルなどを使う「フリーウェイト」に大別されます。上の研究で採用されたレッグ・エクステンションは前者です。
マシンはフォームをある程度制限してくれますし、重量の増減も簡単です。安全性に優れていることも筋トレ初心者やリハビリ中の人にとっては大きな利点です。
それでもあえて、筋トレをランニングに活かす目的のためには、フリーウェイトの種目を私はお勧めします。マシンはある特定の筋肉群を集中して鍛えることに向いていますが、フリーウェイトはより多くの筋肉群を同時に鍛えることができるからです。ランニングは全身運動であることは、今さら言うまでもないでしょう。
たとえば、ダンベルやバーベルを頭上に維持して前後に大きく歩く「オーバーヘッド・ランジ・ウォーク」。下半身の大きな筋肉群はもちろんですが、重量に耐えてバランスを取るために、体幹部分のインナーマッスルも同時に鍛えることができます。

オーバーヘッド・ランジ・ウォークを行う筆者。片手でダンベルを使う方法もある。
同じ狙いで、バーベルを頭上に維持してスクワットを行う「オーバーヘッド・スクワット」も有効な種目です。この記事のトップ画像がそれです。
最近、スクワットやデッドリフトといった伝統的な種目に代わって、スポーツ界で注目を集めているのが「ヒップ・スラスト」と呼ばれる種目です。ベンチなどに両肩をつけ、床に座り、腰の上に置いたバーベルを上下させます。
ヒップ・スラストは、お尻やハムストリングスによく効き、瞬間的にパワーを発揮する能力を向上させる効果がとくに高いとされています。急激に加速する能力を向上させると言い換えることもできるでしょう。そのため、どちらかと言えばスプリンター向けの種目なのですが、長距離ランナーが行っても損はないはずです。

ヒップ・スラストを行う筆者。
どの種目を選ぶにせよ、筋トレは継続することと負荷を少しずつ増やしていくことが何よりも重要です。無理は禁物。ただでさえ普段から体を酷使しているランナーは、とくにオーバートレーニングに気をつけなくてはいけません。
きつい筋トレとランニングを同じ日に行うことは避け、筋トレはランニングの走行距離や負荷が少ない日、オフシーズンに集中して取り組むことをお勧めします。
参考文献:
1. The Effect of Strength Training Methods on Middle-Distance and Long-Distance Runners’ Athletic Performance: A Systematic Review with Meta-analysis.
https://link.springer.com/article/10.1007/s40279-024-02018-z
2. Changes in muscle size and MHC composition in response to resistance exercise with heavy and light loading intensity.
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.90538.2008
3. Resistance exercise load does not determine training-mediated hypertrophic gains in young men.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22518835/