「住みやすい街」ランキング上位常連の千葉県印西市は「走りやすい街」でもある。
アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、千葉県の北西部に位置し、「住みやすい街」ランキングの常連でもある千葉県印西市を、ランナー目線でチェックします。果たして住みやすい街は、走りやすい街でもあるのでしょうか。
近年、「住みたい街」や「住み続けたい街」といったランキングでたびたび上位に顔を出している千葉県印西市。都心からのアクセスの良さ、駅前の大型ショッピングモール、整備された住宅街などが高く評価され、いまや関東圏を代表する郊外型ニュータウンのひとつとなっています。
ところで、ランナーの視点から見ると、印西市にはもうひとつの魅力があります。それは、きわめて走りやすいということです。歩道の広さ、緑の多さ、安全さ、便利さ、そしてコースの多様さ。そうした「走りやすさ」を複合的に数値化するならば、この印西市に優る土地はなかなかないだろう。私はそんな風に考えています。
都会と田園が共存する街、印西。
一口に印西市と言っても広いのですが、ここでは北総公団線の千葉ニュータウン中央駅と印西牧の原駅の周辺を中心にして話を進めます。
駅前にはイオンモール千葉ニュータウンやBIGHOPガーデンモールなどの大型商業施設があり、生活に必要なものはすべて揃います。新しい高層マンションや戸建住宅が並び、子育て世代を中心に人口も増えています。
新たに開発された住宅街は歩道が広く、よく整備された公園も多いので、街ランの場所としても優れています。

クリスマス前にライトアップされた千葉ニュータウン中央駅前。
それだけではありません。印西はとても奥が深い土地です。駅からほんの10分くらい走るだけで、雰囲気ががらりと一変します。そこには、田んぼや畑、竹林、小川など、昔ながらの里山の風景が広がっているのです。町育ちの私から見ると、まるで日本昔ばなしの世界に入り込んだような気さえしてきます。
北総平野に位置する印西には高い山はありません。基本的には平坦な地形ですが、低い丘陵が散在して、なだらかなアップダウンはあります。のんびりと走るには申し分ありません。田園地帯の中で道に迷うと、遠くに見える高層ビルで方向を知ることもあります。都市と自然の景観がほどよく混ざり合って、絶妙なバランスを生み出しています。
トレイルランほどきつくはなく、都会ランよりはストレスがない。そんな里山ランを日常的に楽しむことができるのです。

千葉県印西市高花地区。千葉ニュータウン中央駅前から数km。
走りやすい街が健康な住民を作る例。
私自身は印西に住んだことはありません。この街に頻繁に行き来するようになったのは、両親が30年ほど前に引っ越してきたことがきっかけです。その頃の印西はまだ開発の途上で、今のように賑やかな街並みはどこにもありませんでした。
印西牧の原駅はその名の通りに原っぱの真ん中にポツンと建っていて、駅裏の空き地(空き地ではなかったのかもしれませんが)では山羊が草を食べていたことを覚えています。ウソだろおと思うかもしれませんが本当です。現在でもこの辺りでは庭先で山羊を飼っている家がいくつかあります。

千葉県印西市大塚地区の住宅地にて。2023年8月撮影。
父がこの街に引っ越してきたときは50代も後半に入っていました。サラリーマンからの定年退職を目前にしていた年齢です。そんな父にいかなる心境の変化があったのかはよく分からないのですが、突然ランニングを始めました。
父はそれまではゴルフ以外の運動らしき運動をしたことはありませんでしたし、ヘビースモーカーでもあり、お酒も大好きでした。当然のことながら、お腹も出ていました。最初の頃は1kmも続けて走れなかったはずです。
それでも広い歩道、少ない信号、所々に現れる公園や里山を走る楽しみは、父を中年太り男性から健康なランナーへと変えていきました。だんだんと走れる距離が長くなっていくうちに、タバコを吸わなくなり、体重も減りました。60歳で初めてフルマラソンを完走し、それからなんと18年連続で完走記録を続けたのですから、身内ながら大したものだと感心します。
私はそのずっと以前からアメリカに住んでいるのですが、帰国するたびに、父から走ったコースとその景色について聞かされるようになりました。「この辺りは本当に走りやすいぞ。引っ越してきてよかった」と何度聞いたか分かりません。
それならば親子で一緒に走ればよさそうなものですが、その機会は今までに数回しかありません。私に似て(反対ですね)マイペースな性格の父が「俺は他人と一緒に走ることは好まない」とクールに言い放つからです。

印西市内の公園を走る親子3代ランナー。いつも一緒に走っているわけではなく、写真撮影用のヤラセである。
そんな訳で、私は私で、帰国のたびに印西周辺をひとりで走り回ることになりました。気分としては旅ランですので、毎回のように異なるルートを試しています。そのなかでおすすめしたいコースを3つ紹介します。
印西周辺おすすめランニングコース3選。
コース1:印西牧の原〜小林牧場 往復コース(約10km)

小林牧場。
印西牧の原駅からスタートし、小林牧場まで走る往復10kmほどのコースです。前半は住宅地を抜け、後半は田園風景の中へと入っていきます。特に春には、小林牧場の桜並木が美しく、自然のなかで季節を感じながら走ることができます。
アップダウンも穏やかで、初心者にも走りやすいコースです。走り終えたあとに駅前で軽食をとれるのもうれしいポイントです。
コース2:千葉ニュータウン中央駅〜北総花の丘公園〜草深の森(約7〜8km)

北総花の丘公園。
都会的な雰囲気の千葉ニュータウン中央駅から、まずは「北総花の丘公園」へ。公園内は木陰も多く、芝生広場や池があるので、視覚的にも癒されます。そのまま「草深の森」へ進むと、木々に囲まれた遊歩道が続き、森林浴のような気分で走ることができます。
道中には休憩できるベンチやトイレもあり、散歩やウォーキングにもぴったり。自然に寄り添うやさしいコースです。
コース3:千葉ニュータウン中央駅〜印旛沼サイクリングロード〜佐倉・風車のひろば(約20〜25km)

印旛沼サイクリングロード。
しっかりと距離を走りたい中・上級者にはこちらのロングコースがおすすめです。千葉ニュータウン中央駅から印旛日本医大駅方面を経由し、印旛沼サイクリングロードに出ると、視界が一気に開けて、沼と空の広がるダイナミックな風景が目の前に現れます。
サイクリングロードはほぼ平坦な一本道で、歩行者・自転車ともに安全に利用できます。体力に余裕があれば、そのまま佐倉市方面へ。ゴール地点には「佐倉ふるさと広場」のオランダ風車(リーフデ)があり、春はチューリップ、夏はひまわり、秋はコスモスと、季節ごとの花々が楽しめます。
片道約20〜25km。往復すればフルマラソン以上の距離になります。もっとも私はそこまでの根性はなく、帰りはいつも佐倉駅から電車を利用することにしています。
おわりに。
私にとって印西は、走るたびに新たな発見があるワンダーランドです。父のように、年齢を重ねても無理なく走り続けられる環境があるというのは、本当に贅沢なことだと思います。

千葉県印西市草深地区の住宅地。電線は地下に埋設されている。
ランキング上位の「住みやすさ」には、きっとこうした面の豊かさも含まれているのだと思います。そして、これから住む場所を選ぶとき、「走りやすさ」という視点を持ってみるのも悪くはないのでは。
千葉県印西市——転居先を探しているランナーにも、ぜひおすすめしたい街です。