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COLUMN

ランニングレースと持続可能性は両立できるか。

2025.07.21
GO KAKUTANI

ランニングレースと持続可能性は両立できるか

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、フルマラソンをはじめとするさまざまなレースの持続可能性についてフィーチャーします。ゴミやCO2排出などの課題はありつつも、そこに向き合い、改善しようとするレースも増えてきました。今回は、そんな取り組みを実施するレースを紹介しつつ、持続可能性について考えます。

5Kからウルトラマラソンまで、数えきれないほどの長短さまざまなランニングレースをこれまでに走ってきました。お世話になったボランティアの人の数や、手渡してもらった給水コップの数も、さらに数えきれないほど膨大になるはずです。

恥ずかしいことに、自分が他のランナーをサポートする立場に回ったことは一度しかありません。あるハーフマラソンのエイドステーションで、給水を担当するボランティア・スタッフとして参加したときのことでした。

大量に発生するゴミ。

午前7時のスタートに先立ち、我々ボランティア・スタッフは、まだ夜も明けない午前5時に現地集合でした。ランナーがやってくる前に給水テーブルをセットし、大量の紙コップに水やスポーツドリンクを入れて並べておく必要があるためです。

ランニングレースと持続可能性は両立できるか

スタート前に準備された給水テーブル。

やがてレースが始まると、次々とやって来るランナーたちに紙コップを手渡します。水とスポーツドリンクの2種類があるので、そのどちらかであるかを大声で叫んで、ランナーが間違えないようにするのも大切な役割です。「Water!」あるいは「Gatorade!」と叫び続けているうちに声もかれてきます。今さらながら、ランナーはエイドステーションやその他多くの人たちに支えられているのだなと実感しました。

最後のランナーがエイドステーションを通過すると、後片付けが始まります。そこら中に散らばった紙コップ、エネルギージェルの包み、ペットボトル、その他さまざまなゴミを拾い集めるわけです。

道路脇にまとめられたゴミの量は凄まじいものでした。文字通りの山積みです。しばらくするとゴミ収集車がやってきて、我々ボランティア・スタッフの仕事もそこで終わりになりました。ホッとすると同時に、ランニングレースではこれほど大量のゴミが発生するのか、と驚いたことを覚えています。

ゴミ削減の試み。

ところで、日本のレースではゴミが路上に散乱するという光景はあまり目にしません。ランナーの皆さんが、紙コップや皿などをゴミ箱にきちんと入れていくからです。

さすがに日本人は公徳心が高いなと、アメリカに慣れてしまった私などは感心するばかりです。ただ、どれだけきれいに分別したとしても、ゴミの絶対量そのものが少なくなるわけではありません。日本のレースはエイドステーションの食べ物が充実していることが多いので、実際のゴミの量はアメリカより多いかもしれません。

それならば、ゴミの量そのものを削減しようとする動きも出てきました。世界的に環境保護への意識が高まるなか、紙コップを廃止したりその使用量を減らしたりし、ランナー自身が携帯するボトルに給水する取り組みを採用するレースが増えてきています。

日本での例を挙げますと、「湘南国際マラソン」は2022年から都市型マラソンとして世界で初めて、すべての給水所から紙コップを完全に撤廃しました。2023年に始まった「せとだレモンマラソン」も同様にマイボトルの携帯をルール化しています。

ランニングレースでは紙コップ以外にも大量のゴミが発生します。防寒や防水のためのポンチョや手袋などを棄てていく人もいれば、ゼッケン、完走メダルや証書、ランナーTシャツなどの記念グッズを不要と感じる人もいるからです。そのため、以下のような取り組みを前面に出すレースも増えてきました。

• 完走者メダルやTシャツを選択制にする。あるいは再生可能な原材料製にする。
• 参加者証などの配布物を削減するか、デジタル化する。
• 参加条件に、一定時間以上のトレイル整備やゴミ拾い活動を義務づける。

レースを運営する側と参加するランナーたちがゴミ削減の目標を共有することで、新たなランニング文化が出来上がりつつあります。

ゴミ削減を超えた、総合的な持続可能性への取り組み。

むろん、持続可能なイベントはゴミ削減だけでは実現できません。イベント全体で環境保全を目指す取り組みも進んでいます。2007年に設立された「Council for Responsible Sport(責任あるスポーツのための評議会)」は、各種スポーツイベントに対し、環境および社会責任のフレームワークを提供し、目標を達成したイベントを認証しています。単なるゴミ削減にとどまらず、エネルギー・交通・コミュニティへの影響まで包括して考える総合的な持続可能性を促進することが目的です。

2025年3月5日付で、2024年の「TCS Toronto Waterfront Marathon(トロント・ウォーターフロント・マラソン)」が、同評議会から Evergreen Certification(最上位の持続可能性認証)を取得したことが発表されました 。
同大会の主な取り組み内容は以下の通りです。

Zero Waste(ほぼ完全な廃棄物ゼロ)
  イベント関連ごみの90%以上が埋め立て地に送られず、約4,000kgの有機ごみは商業コンポストへ送られた。

寄付とリサイクル活動
  ◦ 約2,000kgの使い古した衣服を地元チャリティへ寄付。
  ◦ 3,769kgの余剰食料を地域のフードプログラムに提供。
  ◦ 150kgの保温シートを再素材化し、公園のベンチに転用。

ペットボトル廃止
  使い捨てペットボトルを禁止。

Plogging(ごみ拾いラン)イベント実施
  Trans Canada Trailと連携し、事前にマーティン・グッドマン・トレイルで清掃を伴うランニングを実施。

Green Bib Program 導入
  シャツやメダルを辞退する代わりに、参加者が環境慈善団体に寄付できる選択肢を提供し、6.7%の参加者がこれを選び、初年度に約2万ドルを調達。

持続可能な運営施設の利用
  展示会場はLEED認証済みのEnercareセンターを使用 。

こうした多角的かつ総合的な取り組みが評価され、トロント・ウォーターフロント・マラソンはエコ・フレンドリーな大会であるとの国際的なお墨付きを得ました。それを理由として出場するレースに同大会を選ぶランナーも出てくるでしょう。

ただし、我々にはもうひとつ大きな難関が残っています。参加者や観客が遠方から参加すると、その移動に伴ってCO2が排出されることです。

いくら環境に優しいレースを選んで出場したとしても、会場と自宅との往復に自動車や飛行機を使ってしまえば、結果としては環境破壊に手を貸すことになってしまう。身も蓋もない表現ですが、否定しようのない事実です。

それではどうすればよいのでしょうか? 残念ながら、私には答えは見つかりません。とくに都市型の大規模マラソン大会が大勢の参加者を一堂に集めることで成り立っている以上、移動に伴うCO2排出量をいかに削減するかは今後の大きな課題になっていくでしょう。

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に電子書籍『ランニングと科学を斜め読みする: 走りながら学ぶ 学びながら走る』がある。https://www.amazon.co.jp/dp/B08Y7XMD9B 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
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