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COLUMN

アメリカ最古のランニング・イベントで、カリフォルニア屈指の強豪クロスカントリー・チームに挑んだわけ。

2025.01.26
GO KAKUTANI
アメリカ最古のランニング・イベントで、カリフォルニア屈指の強豪クロスカントリー・チームに挑んだわけ

カリフォルニア州アーバイン市内で行われたターキー・トロット。

アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、アメリカ最古のランニング・イベントと言われる伝統行事、「ターキー・トロット」をご紹介。箱根駅伝やボストンマラソンとはまた違った、ファンな雰囲気でランニングを楽しむ歴史あるイベント。毎年全米各地のランナーが、感謝祭を走って祝います。

少し古い話題になりますが、箱根駅伝は今年も盛り上がりましたね。お正月にテレビで観戦した人、あるいは沿道で応援した人、きっとこのウェブサイトには数多くおられると思います。

箱根駅伝、正式名称「東京箱根間往復大学駅伝競走」は今回で第101回目を数えました。第1回大会が開催されたのは1920年。日本の年号では大正9年にあたります。その年には第1次世界大戦の反省から国際連盟が設立され、アメリカでは狂騒の20年代が幕を開け、日本では大正デモクラシーが盛りを迎えていました。とはまるで見てきたようですが、もちろんそうではありません。とにかくそれだけの長い歴史を持つランニングのイベントは世界でも珍しいのです。

アメリカでは箱根駅伝より23年も早く、1897年に第1回目のボストンマラソンが開催されています。なにしろ明治30年ですから、これは古いです。現在でも継続しているマラソン大会のなかでは世界最古だと言われています。

世界のメジャーマラソンの開始年を見てみると、ボストン(1897年)以降はかなり間が開きます。ニューヨーク(1970年)、ベルリン(1974年)、シカゴ(1977年)、ロンドン(1981年)、そして東京(2007年)です。マラソンとは意外に歴史が浅いスポーツなのですね。とくに用もないのに長い距離を走るという行為は、少なくとも近代以前の人類には考えもつかなかったのではないでしょうか。

ところが、アメリカにはボストンマラソンよりさらに1年早く始まり、現在でも行われているランニングのイベントが存在します。感謝祭(11月下旬)に全米各地で毎年行われるTurkey Trot(ターキー・トロット)です。

ターキー・トロットの歴史と現在。

アメリカ最古のランニング・イベントで、カリフォルニア屈指の強豪クロスカントリー・チームに挑んだわけ

筆者が指導する高校でもターキー・トロットを開催している。

1896年11月26日(木)、ニューヨーク州バッファローのYMCAが、感謝祭当日に8kmフットレースを開催しました。参加者はわずかに6名のみ。そのうち2名が途中で棄権し、残り4名が完走しました。この小さなレースが、現在の全米各地で行われているターキー・トロットの始まりだとされています。

YMCAターキー・トロット公式ウェブサイト:https://www.ymcabn.org/ymca-turkey-trot

1900年代に入ると、米国の他地域にもターキー・トロットが広がっていきました。もっとも、参加者の数は100人に満たないイベントが大半だったようです。感謝祭は昔も今もアメリカ人にとっては1年に1回家族親戚が集まる、日本のお正月のように大切な休日です。そんな日に、わざわざ走るためのイベントに多くの人が集まらなかったことは無理もありません。

加えて、つい半世紀ほど前までは、アメリカでも長距離走は男性のみが行うスポーツでした。女性には過酷すぎると思われていたのです。ボストン・マラソン史上初の女性ランナーであるキャサリン・スウィッツァーさんが、初めてこのレースを完走したのは1967年のこと。そのときもスウィッツァーさんは性別を隠してエントリーし、走っている最中に大会関係者から妨害を受けました。

バッファローのターキー・トロットも、1972年になるまでは参加者は男性のみでした。史上初の女性ランナーとなったメアリー・アン・ボールズさんは、同年169名の完走者のうち、142位でゴールしました。

今から思うと隔世の感がありますが、老若男女すべてがランニングを楽しむようになっていくにつれて、ターキー・トロットの規模も飛躍的に拡大していきました。

RunSignup の記事(*1)によりますと、2024年の感謝祭には全米で936のレースが行われ、1,109,909人のランナーが参加したそうです。誤植ではありません。約111万人が感謝祭の日にどこかでレースに参加したのです。国民行事とまではいかなくても、かなりの数字です。

*1. 2024 Turkey Trots Break Records (Again)

レースごとの参加人数は、100人未満のものから5,000人を越えるものまでさまざまですが、300~500人程度がもっとも多いようです。特筆するべきは、男性の参加者は全体の約46%、女性のそれは約53%であることです。約半世紀でランナーの男女比は逆転しているのです。

ターキー・トロットは、3マイルまたは5kmくらいの短い距離が大半を占めます。公式タイムの計測がないことも多く、レースというよりはイベントと呼ぶべきかもしれません。そもそも、感謝祭の伝統的なご馳走に使われるターキー(七面鳥)がトロット(ちょこちょこ歩く)するという名称ですので、真剣にタイムを競う雰囲気は希薄です。もっとも、世の中には少し変わった人もいるにはいます。

カリフォルニア州大会9位入賞の強豪クロスカントリーチーム(の補欠)に挑んだわけ。

アメリカ最古のランニング・イベントで、カリフォルニア屈指の強豪クロスカントリー・チームに挑んだわけ

カリフォルニア州大会決勝レース。感謝祭の数日後にフレズノで行われる。

私の自宅近くでも毎年、あるターキー・トロットが行われています。コースは住宅地をぐるりとループ状に周る約5kmのコース。私にとってはスタート地点まで家から歩いていけるくらいの近所です。

このターキー・トロットは、上記RunSignupのレース統計にはたぶん含まれていません。地元高校クロスカントリー走部の現役部員、OB、その家族らが集まる同窓会のようなイベントで、とくに参加人数も数えませんし、タイムも測らないからです。大体、100人から200人くらいの規模です。

私の息子は、高校時代にこのチームのお世話になりました。彼が卒業してからすでに5年が過ぎているのですが、感謝祭にはこのターキー・トロットに参加することが、今も変わらず私たち家族にとっても恒例行事になっています。

さて、実はこのチームはかなりの強豪高校です。今年は男女チームとも州大会決勝にまで進出し、それぞれ9位と15位に入賞しました。日本なら国体とかインターハイに出場するようなレベルで、私が指導する弱小高校とはレベルも人数も段違いです。

私は息子がチームに在籍していた頃から練習やレースを見学するだけではなく、ときには合宿で一緒に走らせてもらったりもしました。私の指導方法の多くはそこで学んだことが基礎になっています。コーチたちは息子だけではなく、私にとっても恩師なのです。

もちろんターキー・トロットは練習でもレースでもありませんので、この日は皆がリラックスした雰囲気です。1年に1回の再会を喜ぶ姿もあちこちで見られます。ゆっくりと会話を楽しみながらジョグをしても、この日だけはコーチから叱咤されることもありません。

それにもかかわらず、流石に現役ランナーやつい最近まで現役だったランナーたちが大半を占めるだけあって、参加者の平均スピードはどのターキー・トロットよりも速いのではないでしょうか。

彼ら彼女らはぺちゃくちゃ喋りながら、ときにはじゃれあいながら、それでも5kmを20分以内で走り終えてしまうのです。私も一生懸命ついていこうと思いましたが(大きな声では言えませんが、秘かにトップグループを狙っていたのです)、レギュラー組や元レギュラー組にはまったく歯が立ちませんでした。かろうじて控えチームの集団には離されずに済みました。

もちろん、そんな風に年甲斐もなく無謀な大人は私ひとりだけです。コーチや保護者たちはゆっくりと走ります。

祝日の朝はファンランで始める。そんな伝統は悪くありません。日本でも元旦に走るイベントはいくつかあるみたいですけど、もっと増えるといいですね。

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に電子書籍『ランニングと科学を斜め読みする: 走りながら学ぶ 学びながら走る』がある。https://www.amazon.co.jp/dp/B08Y7XMD9B 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
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