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COLUMN

祝日の朝は5kmファンランでスタート。米国の新たな伝統。

2024.08.15
GO KAKUTANI

祝日の朝は5kmファンランでスタート。米国の新たな伝統

カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。今回は、米国の祝日の朝の新たな伝統について。タイムに関係なく誰もがランニングを楽しむ、そんなファンランイベントが米国各地で開催されています。

7月4日(米国独立記念日)に、私の近所で恒例の5km走レースが開催されました。米国各地でも同様のイベントが行われていたはずです。

意外に感じることかもしれませんが、米国には連邦政府が定める「国民の祝日」が年間11日しかありません。日本の年間21日に比べると、その約半分に過ぎないのです。しかも、米国の祝日のなかには、学校や企業によっては休日にならない日も含まれていて、確実に国民全体が「お休み」モードになる日といえば6日しかありません。元旦(1月)、戦没者記念日(5月)、独立記念日(7月4日)、労働者の日(9月)、感謝祭(11月)、そしてクリスマス(12月25日)です。

その貴重な祝日の朝を5kmレースで始めるということが、米国の新たな伝統になりつつあります。どの祝日においても、それにちなんだレースが各地で開催されているのです。

お祭りのようなランニング

祝日の朝は5kmファンランでスタート。米国の新たな伝統

さて、その7月4日のレースですが、米国の伝統に則り、スタート直前には米国国歌斉唱が行われました。独立記念日ではなくても、米国でスポーツのイベントが行われるときは大抵そうです。集まったランナーたち、ボランティア、スタッフ、応援者、見物者、あるいはたまたま通りかかった人、とにかくその場にいる全員が星条旗に向かって直立し、その日に選ばれた歌手の歌声を静聴します。

この日は独立記念日ということもあって、いつもよりさらに厳粛な雰囲気でしたが、後半の声を張り上げるパートになると大声や拍手で盛り上げるのが、いかにもこの国らしいです。そしてスタートの号砲が鳴った途端に賑やかなファンランが始まりました。

こうした祝日の朝に行われるレースの大半では、公式タイムや順位も一応発表されますが(まったくないイベントもあります)、それでもランナーたちの間では真剣に競い合うような雰囲気は希薄です。それよりも健康的なライフスタイルを促進すること、家族や地元コミュニティとの繋がりを深めることなどが前面に出てきます。

普段から走る習慣を持たなくても、5kmという距離はまあ誰でも走れます。子どもから高齢者まで、ランナー風の人もそうでない人も、幅広いタイプの参加者たちが胸にゼッケンをつけて、それぞれのペースでゴールを目指します。家族や友人同士で参加し、おしゃべりをしながら走る人が大半です。疲れたら歩いてもいいわけですし、そもそも最初から歩いている人もたくさんいます。

祝日の朝は5kmファンランでスタート。米国の新たな伝統

小さい子ども用に1kmだけのレースもありますし、一般の5km部門にも特に年齢制限はありません。親子のペアランナーの姿がとくに微笑ましく思えるのは、単に私の個人的な思い出からくる感傷のためです。10年以上も前のことになりますが、当時まだ小学生だった息子にとって、生まれて初めての5kmレースに連れてきたのが、この独立記念日レースでした。その頃の息子は、私が行くところにはどこにでもついてきましたし、走っても私の方がはるかに速かったのです。私の瞳が濡れているのは涙なんかじゃありません(松山千春風)。

ホリデーシーズンはさらに楽しく

祝日以外にも、米国で一般的に○○の日とされる日がいくつかあります。そして、それぞれに合わせたようなファンランが行われます。

たとえば、2月上旬のスーパーボウルはまさに国民的行事です。翌日は振替休日にしてもよいのではないかと思われるほど、特別な日曜日です。その日の朝は応援するチームのシャツを着て走り、午後にはテレビの前に缶ビールを持って集合するというパターンを、毎年続けている人は少なくありません。

3月にある聖パトリック・デーは、本来はアイルランドのお祭りなのですが、なぜか米国内では、緑色の服を着て、お酒をたくさん飲む日になっています。その日の朝に行われるレースでは、ランナーたちはゴール後のビールを楽しみに走るか、あるいは走りながら飲んでいます。

日本でもお馴染みになった10月のハロウィンでは、仮装したランナーの数がぐっと増えます。そしてその流れは、11月の感謝祭や12月のクリスマスへと引き継がれます。米国では年の後半はホリデーシーズンなのです。普段は遠方に住んでいる家族が里帰りして、一緒に地元のレースで走ることを恒例にしている人たちもいるようです。

この時期の祝日に行われる5kmレースには、ターキー(七面鳥)、変な模様のセーター、サンタクロース、その他まったく関係ない仮装まで、思い思いの格好をしたランナーたちが集まってきます。もちろん、ごく普通の恰好で走っている人がいないわけではありません(私はそうです)。

いずれにしても、どの日のレースも大抵は朝に行われます。5kmですので、時間もさほどかかりません。楽しく汗を流し、カロリーを消費し、さっぱりした気分で午後の暴飲暴食に備える、あるいは言い訳にする。そんな伝統も悪くはないかなと思います。

もし米国に旅行している期間中になにかの祝日が挟まっていたら、地域のイベントを探してみてはいかがでしょうか。見物するだけでも楽しいですし、一緒に走ってみるのはさらに楽しいでしょう。

Go Kakutani
角谷 剛
アメリカ・カリフォルニア州在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持ち、現在はカニリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務めるほか、同州ラグナヒルズ高校で野球部コーチを兼任。また、カリフォルア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。 公式Facebook:https://www.facebook.com/WriterKakutani
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