夏だからこその早朝ラン
アメリカ・カリフォルニア州に在住し、同州の高校でクロスカントリー走部のヘッドコーチを務める角谷剛氏による連載コラム。第5回目の今回は、夏真っ盛りのいま行われている現地高校生のサマーキャンプ、そして夏場の早朝ランニングとその効果について。
夏が来ると、どうしても走るのは早朝になります。南カリフォルニアの夏は、亜熱帯のようだと言われる昨今の日本ほど蒸し暑くはありませんが、それでも最高気温が摂氏30度を超える、いわゆる真夏日が続きます。雨がほとんど降らないどころか、曇りの日さえ珍しいほどです。とてもとても、昼間に屋外を走る気にはなれないのです。
私と同じように感じる人も多いらしく、夏になると早朝ランですれ違うランナーの数がぐっと増えます。そのなかには高校生の集団も混じります。あちこちの高校クロスカントリー走部が夏休みの間は早朝の時間帯に練習するからです。つまりは朝練なのですが、こちらではサマーキャンプと称します。
走るために毎朝学校へ通う夏休みは楽しいか
サマーキャンプという言葉は、アメリカでは小学生くらいの子どもが集まって遊ぶことにも使われますが、高校スポーツに話を限ると、夏休み中のトレーニング期間、あるいはお試し期間に相当します。生徒たちからすると夏休みでも学校に通うことになるわけで、とくにどこか遠くへ泊りがけに行くわけではありません。
それでも、野球やテニスなどのスポーツはサマーキャンプ期間中に練習試合を多く組み込みますので、選手たちはプレッシャーとは無縁の楽しい時間を過ごすことができます。しかし、クロスカントリー走部のサマーキャンプとなると、毎朝学校に集まって周辺を走ることの繰り返しです。コーチの私たちも彼らと一緒に走ります。
クロスカントリー走のシーズンは秋から始まります。夏の数か月間はまだ準備期間ですので、スピードやペースを云々するより、ただひたすら長い距離を走るための身体を作ることが練習の主な目的になります。走るコースや距離になるべく変化をつけるようにはしていますが、要するに早朝ジョグです。それを週5~6日やります。つまらないな、と思ったとしても無理はありません。
それなのに、文句も言わずに、早朝から走るためだけに学校へやって来る高校生たちが数多くいることには、驚きもしますし、感心もします。文句はあるのかもしれませんが、私の耳には聞こえてきません。
早朝ランのメリット
たとえ嫌々であっても、毎日のジョグを続けていれば、それなりの効果は誰にでも現れます。とくに新入生などは、それまでに1マイル(1.6km)以上走ったことがありません、なんて生徒も多く混じっているのですが、夏休みが終わるころには10キロくらいを走り通せるようになります。辞めずに続けたら、の話ですけど。
高校生でなくても、早朝に走ることにはさまざまなメリットがあります。よく言われるのがダイエット効果です。朝起きたばかりの体は空腹でエネルギーに乏しいので、その状態で走ると脂肪を燃焼しやすくなり、その結果として体重を落としやすい、あるいはコントロールしやすいという理屈です。
さらには、体内に糖質が少ない状態で長時間の運動を繰り返すと、身体は脂肪からエネルギーを優先的に使うように適応するらしいです。ファット・アダプテーションと呼ばれる身体反応です。このことは長距離ランナーにとっては大きな意味があります。なぜなら、脂肪は非常にスリムな人でも50,000カロリーほどが体内に貯蔵されていると言われていて、ほぼ無尽蔵のエネルギー源なのです。つまり、ファット・アダプテーションによって、フルマラソンくらいの距離ならエネルギー補給なしに走り続けることが可能になるはずなのです。
結果としての健康的なライフスタイル
もっとも、上に挙げた早朝ランのメリットは、朝起きたときに空腹状態であることが前提になります。だから寝る前に大食いをしてはダメです。これから運動をするわけですから、二日酔いなどは論外です。
私自身、以前はそのことがよく分かっていませんでした。走りながら自分の息がアルコール臭かったことも何度かあります。その度に苦しい思いをしました。まさに自業自得です。しかし、私にも学習能力と言うものが少しは備わっています。早朝ランを続けるうちに、自然に暴飲暴食はしなくなりました。寝不足で走るのはつらいので、ベッドに入る時間も早くなりました。食事は腹八分目、お酒は控えて、早寝早起き。そんな生活パターンが出来上がっていったのも、すべては翌朝に気持ちよく走りたいがためでした。
人は健康になるために走るというよりも、走るためには健康にならざるを得ないのではないでしょうか。早朝ランを習慣にすると、健康的なライフタイルが結果としてついてきます。それは大人に限った話ではなく、子どもがゲームで夜更かしをしなくなったと、サマーキャンプに参加した生徒の保護者に感謝されたことがあります。
走り終えて、シャワーを浴び、朝食を食べても、まだ午前8時にもなっていない。そんなときもあります。普通の人なら1日が始まったばかりの時間かもしれませんが、こちらはすでに一仕事を終えた気分です。それから何をするかはその人次第。たとえ、残りをダラダラと過ごしたとしても、走った距離は裏切りません(たぶん)。
暑すぎる夏を心身ともに快適に過ごすためにも、早朝ランを取り入れてみてはいかがでしょうか。