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SPECIAL

日本の凄さを再発見! DISCOVER JAPAN TECHNOLOGY. Part.5 ASICS

2021.05.04
MASAHIRO MINAI

日本ブランドの研究開発施設を探訪する「日本の凄さを再発見!」、最終回。

過去4回に渡ってご紹介してきた、日本のスポーツブランドの研究開発施設に潜入する「DISCOVER JAPAN TECHNOLOGY.」企画。いよいよ最終回となる第5回は、日本を代表するスポーツブランド、アシックス社を探訪する。

スポーツする人とモノとの一番いい関係を徹底研究!

日本を代表するスポーツブランドであるアシックス。機能性に優れたプロダクトにより、日本のみならずワールドワイドで高い評価を得ているのはご存じの通り。現在は総合スポーツブランドとして様々なカテゴリーのスポーツ用品を展開しているが、その原点のひとつが、鬼塚喜八郎氏によりスポーツシューズ専門メーカーを目ざして1949年に神戸市に創業された鬼塚株式会社。「スポーツによって、青少年たちを立派に育てる」ことを目標に、バスケットボールシューズを始めとしたスポーツシューズの開発・生産・販売を開始し、同社の靴はオニツカタイガーの商標で、オリンピック選手を含むあらゆる層のユーザーに愛されることになった。1977年には、スポーツ用ネットなどで高いシェアを誇った株式会社ジィティオ、スポーツウェアを得意としたジェレンク株式会社との合併により株式会社アシックスが誕生し、現在に至っている。

そんなアシックスの研究開発の中枢となるのが、アシックススポーツ工学研究所。1977年にアパレルの研究を行う研究部門として技術研究室を、その後1980年にシューズの基礎研究課を設立。1985年の本社移転に伴い、スポーツシューズとスポーツアパレルの研究部門が統合され、スポーツ工学研究所が設立された。1990年になると、現在神戸市西区にある研究施設が建てられ、2015年に規模拡張や研究開発強化を目的に増築が行われた。こちらの施設には2013年と2015年にも訪問。これまでに国内外の数々のブランドの研究開発施設を訪れたが、その規模、機材の数もトップレベル。ブランドによっては素材や機能開発の多くを外部の大学研究施設などに頼る場合も珍しくないが、アシックスの場合はアシックススポーツ工学研究所が、そのほとんどを担う。

アシックススポーツ工学研究所は、「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というビジョンを具現化する、アシックスの基幹を担う部門であり、「Human centric science」にこだわり、人間の運動動作に着目・分析し、独自に開発した素材や構造設計技術を用いることによって、アスリートのみならず、世界の人々の可能性を最大限に引き出すイノベーティブな技術、製品、サービスを継続的に生み出すことを使命としている。創業者鬼塚喜八郎氏のモノづくりへのこだわり(DNA)が受け継がれている部門・施設であるスポーツ工学研究所は、スポーツをする人とモノとの一番いい関係を徹底研究するサイエンスの拠点であり、ヒトの動きを先進の技術で研究・分析し、スポーツをもっと人に近く、もっと人にやさしくしたいと考えた彼の情熱のすべてが込められている。ちなみに、アシックスの本社施設は神戸市中央区のポートアイランドにあるのに対し、アシックススポーツ工学研究所は、本社から30Km弱離れている神戸市西区に位置する。ここで研究スタッフは日々研究開発だけに集中しているのである。

モーションキャプチャーでアスリートの動きを解析。製品開発に役立てる。

スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造!

前述の通り、アシックススポーツ工学研究所の設立目的は「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というビジョンを具現化することであり、多くのプロダクトは、ここを拠点に実施された研究開発、評価試験などが反映されてきた。特にランニングシューズはアシックスがメインで注力しているカテゴリーで、1993年から現在までにおいて27代に及ぶ進化を続けているゲルカヤノや、2019年以降、新シリーズとして好評を得ているエナジーセービングシリーズやブラスト ビヨンド シリーズが代表例となっている。これらシリーズが多くのランナーに支持されている要因として挙げられる緩衝性能を有するGELテクノロジーや、走行効率性という着眼点で開発されたガイドソールテクノロジー、高い軽量性と反発性を両立させたソール材料であるフライトフォームブラストは、開発生産部門などと連携した研究開発機関を自社内に有するアシックスだからこそ実現できたものだと自負しているという。

無酸素性作業閾値(AT)を測定。ランナーにとって重要なこの数値も 製品やサービス開発に活用される。

そうしたプロダクト、テクノロジー、マテリアルの開発には困難がつきもので、ガイドソールテクノロジーが初搭載されたメタライドは、開発に約2年という歳月をかけて完成したシューズ。2019年、メタライドは「より少ない力で、より長く走る」というコンセプトに基づいて開発され、東京マラソンのタイミングで世界同時リリースされ、大きな注目を集めたが、このコンセプトや考え方は従来のアシックスにはなく、全く新しいチャレンジであった。まずは人の身体にとって最も効率的と思われる動き方についての仮説を立案し、それを促すための機能性を最大限に発揮しつつ、ランナーの感覚にとって大きな違和感のないシューズにするため、形状や構造、材料の組み合わせを探りながら形にしていった。開発過程において、さまざまなプロトタイプを作成したが、新しい取り組みだったこともあり、品質や機能などさまざまな視点で確認を行うため、工場から届いたプロトタイプを研究所内で加工して、手探りで改善策を検討することも多々あったという。こうした問題を1つずつ取り除きながら、最終的なプロダクトが完成した。採用されているガイドソールの機能設計にあたっては、ランニングをする際に足がどう動くべきかを考え、それを達成するためには、ソールとしてどういった形状が理想的か、ランニング時に発生するシューズの変形も考慮に入れて、さまざまな計算・シミュレーションを通して導き出された。

スポーツ工学研究所内でミッドソールやアウトソール素材の配合検討も可能だ。

メタライドに限らず、アシックスの多くの製品において、自社で開発した材料が使われていることもあり、スポーツ工学研究所で培ってきた材料開発の知見もガイドソールの設計に大きく貢献している。このような徹底的な機能や材料の設計は、アシックススポーツ工学研究所という世界屈指の研究設備を保有するアシックスの強みであり、最も強いこだわりを持っている部分であるという。

素材の分析には電子顕微鏡なども利用される。

素材の分析には電子顕微鏡なども利用される。

また同研究所では、ランナーの動作を計測した動的なデータから、直営店でも実施している足形計測の静的な形状データまで、これまで研究開発から培ってきた膨大なデータを有しているのも大きなアドバンテージ。動的データは10万データを超えるデータ数、足形データは約100万人分を保有している。このような多くのデータは、新しい製品やサービスの開発に活かされており、これだけの計測データを保有するブランドは珍しい。また、アシックスが高機能シューズを開発するにあたり、8つの機能設計指標が存在しており、ターゲットとするユーザーに必要な機能をバランスよく設計する指針を設けている。研究開発においては、コンピューター上での設計・シミュレーションを行うデジタル技術を活用することで、よりスピーディで高精度に開発を進めるプロセスの確立や、シューズのソール材や樹脂パーツなどの素材を独自で設計及び開発を行うことのできる体制を整えているのだ。

※本企画は、Runners Pulse Vol.07の記事を再編集してお届けしています。

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