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SPECIAL

ALTRA(アルトラ)のルーツを探る、ソルトレイクシティの旅! PART.2

2019.03.20
SHIMPEI KOSEKI
MASAHIRO MINAI

キッチンのオーブンでプロトタイプを作成!

アルトラの代名詞といえば、なんといってもゼロドロップ。つまりヒール部分とトウ部分の高低差がないことをいう。一般的なランニングシューズでは踵のほうがつま先よりも高く、シューズによって異なるが、アルトラがゼロドロップを提唱するまでは10mm~12mm程度の靴が多かった。

元アメリカ代表の長距離ランナーで、ランニングショップのマネージャーだったK.ゴールデン・ハーパーは、「ランニング障害の原因はシューズにあるのでは?」と思い、裸足で立っているのと同じ踵とつま先の高低差のないフラットなシューズが必要であると考え、ほとんどすべてのブランドに製造を依頼するが、答えはすべてがNO。どうしても諦めきれなかった彼は、2009年に友人のブライアン・ベックステッドらと自分たちのブランドを立ち上げて、高低差のないランニングシューズ開発をスタートさせる。


左から創業者のブライアン・ベックステッド、K.ゴールデン・ハーパー、そしてゴールデンの父で「ランナーズコーナー」のオーナーであるホーク・ハーパー

「走ることをあきらめたランナーをもう一度走らせたい!」という情熱は、プロトタイプを自宅キッチンのオーブントースターで、ミッドソールを剥がして作るというような、一見すると無謀な行動に彼を駆り立てたのである。ゴールデンは「2008年のある日のことなのですが、お店に来たランナーにシューズを履いた状態とシューズ無しの状態の両方で、トレッドミルで走ってもらいました。すると意外なことにシューズを履いているときよりも裸足のほうが自然な着地をしていたのです。

そしてその理由は、シューズの踵部分がつま先部分より2倍ほど厚く、重量もヒール側のほうが圧倒的に重いことが、その原因では? と推察しました。かといって裸足ではアスファルトやコンクリートといった舗装路に対応しないですし、ベアフットタイプのシューズでは、長距離を走った時に脚部へのダメージが大きすぎる。


ゴールデンが家庭のオーブントースターで手作りしたゼロドロップシューズのプロトタイプ

こうしてゼロドロップの構造ながら、しっかりと衝撃吸収性もあるランニングシューズを開発したいと強く思うようになったのです」と、当時のことを振り返りながら語った。

幾度もの試行錯誤から遂にブランドが誕生!

彼らが全く新しいタイプのランニングシューズ開発をスタートさせると、いくつも難題が立ちはだかった。「一番難しかったのは、ゼロドロップのアスレチックシューズのラスト(木型)は存在していなかったので、それを一から作らなければならなかったこと。ランニング障害のない健康な人の足型を基に、何度も修正してラストを完成させました。

またフットシェイプという、人間の足の形状を尊重した前足部にゆとりあるデザインも珍しかったですからね。初期のサンプルはかなり不格好になってしまったので、快適な履き心地を損なうことなく、ある程度スタイリッシュにするのも簡単ではありませんでした」とゴールデンはコメント。

こうしてゼロドロップとフットシェイプを特徴とする他に類を見ないブランドが誕生する。創業モデルは現在もその名を残すインスティンクトだった。「当初ブランド名は、壊れた足を治すという意味を込めて、ラテン語で修理などを意味するAlteraからアルテラと命名しました。いいネーミングだと思ったのですが、サンプルや製造したシューズなどにロゴを入れた後で、この名前をすでに使っていたコンピュータ関連の大企業からブランド名の変更を求められ、アルトラ(Altra)へと急逮変更しました。ウルトラマラソンのUltraや選択肢という意味のAlternativeも想起させるので、結果的にはよかったですし、今はとても気に入っています。」と、創業者のひとりであり、現在同社の社長を務めるブライアンは語る。

なんとかサンプルを完成させた彼らは、毎年12月にテキサス州オースチンで開催されるランニング業界最大級のイベントである、ザ・ランニング・イベント(THE RUNNING EVENT)に満を持して参加。自己資金をほぼゼロまで使い果たした彼らだったが、「ゼロドロップなのに、しっかりとクッション性のあるランニングシューズは珍しいね!?」と評価され、20軒ほどの小売店からオーダーを貰うことができたのである。

自らが走ることで迅速なフィードバックを実現!

こうしてアルトラのランニングシューズが実際に市場で流通を始めると、「他のシューズでは脚が痛くなって走れなかったのに、アルトラは大丈夫だった!」というように、ランナーから次々とポジティブなフィードバックが寄せられるようになり、確実にシェアをアップさせることに成功。アメリカのランニングシューズマーケットにおいて存在感をアビールするようになった。

筆者は2007年以来、毎年のようにアメリカのロードレースを走っているが、2013年くらいからアルトラを履くランナーを数多く見かけるようになった。そのシェアは年を追うごとに上昇しており、アルトラのロゴは世界中のロードレース、トレイルレースで頻繁に見かけるようになった。

「ちなみに現在使用されるロゴはジャーニーロゴと呼んでいますが、インターネットで公募して90通ほどの応募から採用されました。250ドルの賞金が与えられましたが、考案した人には会ったことはないのです」とゴールデンは笑う。


マネージメント自らが走ることによって、製品への迅速なフィードバックを行うことができるのもアルトラの強みだ

現在、同社はオンロード、トレイルの両方で高い評価を得ているが、それにはゴールデン、ブライアンといった創業者で、現在もブランドの主要メンバーである彼らが現役のランナーで、オフィスのすぐそばでシューズをテストできる環境にあることも大きい。出来上がったサンプルを履いて走って、その結果を自らフィードバックして製品の改良に活かすことができるというのは、ある意味スポーツブランドの理想形である。

徹底的なテストにより製品の完成度を高めた!

実際に彼らがシューズをテストするトレイルのひとつへと案内してもらった。このユインタ国立森林公園内にあるドライキャニオントレイルヘッドは、創業以来、ゴールデンとブライアンが時々訪れて、野山を駆け廻り、アッパーのフィット&サポート具合、アウトソールのトラクション性能をチェックするのに最適だったという。今も走ることがライフスタイルにしっかりと根付いている彼らにとって、ランニングは仕事であり生活なのである。

そんな彼らにお気に入りのランニングコース、レースを聞いてみると、好きなトレイルコースは二人ともグレートウエスタントレイルのティンパノゴス山の正面部分で、学生の頃から親しみのある場所だったとのこと。ちなみにトレイルランニングシューズのティンプは、この山から命名された。

海外で印象に残ったトレイルコースに関して、ブライアンは「UTMBのコース、特にシャモニーは最高!」、ゴールデンは「オーストリアのインスブルックも素晴らしいトレイルでした」と語り、さらに「ロードレースではユタ州南部で行われるセントジョージマラソンが好きです。ロードレースなのですが、しっかりとアップダウンがあって走っていて飽きない」。

ブライアンは「毎年出走するくらいボストンマラソンは恒例行事となっていますが、ただ走るのではなく、一日にコースを二度走るダブルボストンというのを5回達成しています」という。二人とも走るのを楽しみつつ、それをしっかりと製品の機能性向上に繋げているのだ。

 

 

そして今後のブランドの目標を聞くと、ブライアンは「アメリカ国内でブランド認知度はかなりアップしているので、より沢山の人にアルトラの良さを知ってもらいたいです。これまで通りランニングカテゴリーは重視しますが、それ以外にジムで履くトレーニングシューズ、ハイキングカテゴリーにも注力していきます。

また経営権がVFグループ(ザ・ノース・フェイスやアイスブレーカー、スマートウール、ティンバーランド、ヴァンズetcを傘下に持つ)に移譲されることになったので、ランニングアパレルも期待できると思いますよ」という。これまで以上にアルトラの動向に注目していきたいと思う。

 

INFORMATION
・ALTRA on the web
URL:http://www.altrazerodrop.jp/

・株式会社 ロータス
URL:http://www.lotus-corp.jp/

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