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市民ランナーの星、吉田香織が本格復帰!
さいたま国際マラソン特別インタビュー Part2

[2015/11/18]
Photos:Runners Pulse Interview:Miyuki Takahashi

吉田香織

マラソンの醍醐味は30km過ぎ。攻めるべきか守るべきか。葛藤があった

苦しい中、ふと思ったんです。「ここでチェシャイアー選手を抜かして2位にならなかったら、一生後悔するだろうな」って

— 30km過ぎにペースメーカーが離れたところで、バイサ選手とチェシャイアー選手がスピードを上げました。引き離されたときはどんな気持ちでしたか?

あの二人がいきなり16分台(5km)にペースを上げたんですよね。「そんなに上げる!?」ってびっくりしたし、単純についていけなかった。ちょうど登り坂だったのもありました。どんどん離れていったけれど、前の選手の背中が見えるところで何とか粘ろうと思いました。そこに踏みとどまれば、何かが起きる可能性はあると信じて。結局、バイサ選手には置いていかれてしまったけれど、チェシャイアー選手の背中はずっと見えていて、途中で何となくフォームが崩れてきたことが分かったから、「ゴールまでには捕まえられるかな」と希望を持ちながら走り続けました。

— その頃はもう、折り返し地点のような余裕はなくなっていたんですね。

誰でもそうだと思うけれど、マラソンって30kmを過ぎると突然身体がおかしくなるんですよね。身体の中のエナジーを全部使い切っちゃうみたいな感覚があって、30kmまでと同じようには走れない。自分がゴールまで持つようにすることが第一目標になって、走り方が変わるんです。わたしも、その頃には周りのことを気にする余裕がなくなってきて、自分がしっかりとゴールすることばかりを考えていました。ただ、苦しい中でふと思ったんですよ。「ここでチェシャイアー選手を抜かさなかったら、2位にならなかったら、一生後悔するだろうな、わたし」って。

— そんなに苦しい中、素晴らしい粘り強さをみせてくれました。

30km地点までより1km10秒くらいタイムが落ちましたが、無理しすぎないペースで淡々と差を詰めていって追い抜くことができました。今までいろんなレースをしてきて、例えば、40kmまでずっとトップだったのに、ラスト2kmで突如フラフラになって、6位まで落ちたこともありましたから、これまでのレース経験も生かされたと思います。

— 試合運びは予想していた通りでしたか?

もうちょっと先頭集団が多くなると予想していました。日本人トップは狙っていたけれど、かなり有力な外国人選手がたくさん出場していたし、全体の順位としてはもう少し下がるかなと思っていたんです。全体として6、7位くらいで日本人トップというようなシミュレーションをしていました。それが、蓋を開けてみると、外国人の選手たちも予想以上にあのコースにやられてしまった。わたしにとっては嬉しい誤算でしたね。マラソンを走るには、少し条件が良くなかったかな。起伏に富んだコースと蒸し暑さがありました。

吉田香織

レースが過酷になるほど強さを発揮するのが吉田の真骨頂

— 初マラソンで優勝した2006年の北海道マラソンのときも暑かったんですよね? 吉田さんは過酷なレースの方が強いという印象があります。

そうかもしれないですね。悪条件でレースがタフになればなるほど強いかも。新しいもの、未知なるものも得意な方です。意外なことがあっても、割と動じないので、他のランナーと比べると落ち度が少ないのかもしれません。

— さいたま国際マラソンのために特別な練習をしましたか?

北海道マラソンの後、9月にさいたま国際マラソンのコースを自転車で試走したのですが、予想した以上にアップダウンがキツいということが分かりました。これは相当筋力をつけて脚をつくっておかないと後半持たないと実感したんです。それで、埼玉に「奥武蔵」という地域があるんですが、そこには車もほとんど来ないし、40km以上アップダウンの多いロードを走り続けられるコースがあるので、週に1度は奥武蔵を30km走ることにしました。最初はまだ東京が暑かったので、涼しさを求めていたところもあるんですが、これが結構効いたと思います。通い始めた頃は1日走ると足がパンパンで筋肉痛になりましたが、最終的にはひょうひょうと走れるようになった。今回先頭集団についていけたのは奥武蔵での練習の成果だと思います。

— レースを振り返って、「こうしておけばよかった」と思うことはありますか?

30kmでペースメーカーが抜けて、外国人二人と三つ巴になったとき、ちょっと弱気になった自分がいたんですよね。精神的な部分かなと思うんですが、そこが自分にとっての課題かな。ただ、あとでラップタイムを見たら本当にすごくスピードアップしていたので、あそこでついていったら、逆にわたしがチェシャイアー選手のように途中で崩れてしまったかもしれない。どっちが正解かは分からないけれど、今後世界で戦っていくことを考えたら、弱気になってしまうところは克服しておかなければいけないと思います。

吉田香織

苦しい終盤に追い抜かして勝ち取った準優勝。評価に値する