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市民ランナーの星、吉田香織が本格復帰!
さいたま国際マラソン特別インタビュー Part3(最終回)

[2015/11/19]
Photos:Runners Pulse Interview:Miyuki Takahashi

吉田香織

ときおり顔が歪む37km過ぎ。それでもなお強い視線はチェシャイアー選手を捕えている(撮影:金岡栄三)

働きながら結果を出せると分かったことが、自分にとって一番の収穫です

— 2位という今大会の結果を自分ではどう評価していますか?

前回の北海道マラソンも2位でしたが、あれは国内選手との戦いでしたからね。今大会はリオデジャネイロ五輪の代表選考会を兼ねていましたし、たくさんの有力な外国人選手も来ていましたから、そのなかで2位に食い込めたのは、世界と戦える力がついたということだと評価しています。それに、やはり自分はどうなるのか分からない未知のレースの方が得意なんだなぁと感じました。

— そうですよね。そういうイメージが確かにあるのですが、新しいレース、未知なる要素に強いのはプレッシャーに強いということなんでしょうか?

うーん、新しいものや意外なものに対して動じない、逆にそういうのを楽しめる性格なので、それがいいのかな。例えば、今回のレースでもかなり個性的な走り方をする選手がいたんですよ。手とか足とかバンバン当たるから、隣にいるとイライラしちゃう選手も多いんじゃないかな。でも、感情的になるとエネルギーロスするから崩れちゃうこともあるんですよね。その点私は「この人の走り方おもしろいなぁー」って感じるタイプで、そこまでイライラしないんですよ。

— なるほど、「違い」に対して寛容なんですね。そういった吉田さんのおおらかな性格が勝負に生きてくるのはおもしろいですね。

そうですね。むしろ、読めないレースの方が好きなんですよ。知らないコース、知らない選手、知らないレース展開にワクワクしちゃう。普通は「怖い」っていう感情の方が先にくるものなんでしょうが、わたしにとってはそのワクワク感がとても大事なんです。初マラソンのときがそうだったんですよね。

— 初マラソンで優勝して世間を騒がせた2006年の北海道マラソンですよね。

あのときは、ずっと駅伝をやってきて、憧れのマラソンにようやく出られるという気持ちでいっぱいで、ものすごくワクワクしていました。それでいい結果が出た。以来、できるだけ違うレースに出るようにしたりして、ワクワク感を大事にしています。ワクワクドキドキしながら未知なるものにチャレンジするときのモチベーションが大きな力になるんですよね。

吉田香織

辛い2年の謹慎期間、人知れず練習を積んだこの1年、すべてを笑顔に変えた

— 勝ったことで、いろんな方にねぎらいの言葉をいただいたと思いますが、一番印象に残っているのはどのような言葉ですか?

「市民ランナーの励みになりました」っていう言葉を多くいただいたんですが、それはすごく嬉しかったです。わたしができたことは頑張れば誰かもできることだと思う。別世界の人間じゃなくて、自分と同じ市民ランナーとしてわたしのことをみてくれて、もっと上を目指す人が増えたら本当に嬉しいです。

— 実業団に入らないと結果が出せないわけではないことを証明しましたね。

そうですね。記者の方に「何ランナーですか?」って聞かれて、「OLランナー」って言ったんですけど(笑)、働きながら結果を出せると分かったことが、自分にとっても一番の収穫でした。

— 実業団時代と今、結果を出すことで得られる嬉しさは変わりましたか?

実業団時代に学んだことも多いんだけれど、毎日練習ばかりの狭い世界だから、誰が応援してくださっているのかも分からなかったんですよね。今は、練習していると市民ランナーの皆さんが「頑張ってね!」と直接声をかけてくれる。それがすごく大きな力になるんですけど、逆にプレッシャーにもなるわけで。今はそんな皆さんの期待に応えられてホッとしています。あとは、今回のこの状況と練習でこの結果が出たなら、もっといけるなっていう自分への期待感が生まれました。

— 今後の予定は決まっていますか?

次のレースも活動もオリンピックの選考次第なんですけれど、調整できたらトレイルランニングにもチャレンジしていこうと思っています。今回もサロモンのウエアで出場したんですよ。

— トレイルランニングとは、また新しい世界ですね!

そうですね、普通は「トレイルラン!?」ってびっくりしますよね(笑)。でも、常に新しい世界を見たいタイプだし、マラソンのトレーニングにはいろんなアプローチがあっていいと思うんです。アップダウン対策で通った奥武蔵で山の魅力を感じたのも興味を持つキッカケになりました。まだレースに出たことはないので、出てみたいなと思っています。もちろん、ランナーズパルスのイベントでも活動していきますよ。

— 市民ランナーという自由な立ち位置で、さらに広がる世界を見ていきたいんですね。

そうそう。実業団では難しくても、今ならできることはたくさんありますからね。

— オリンピックには出たいですか?

もちろん出たいです。リオを目指しています。

— ランナーズパルスの読者に一言お願いします。

自分が苦しみや挫折を味わった時に支えてくれたのが「仲間」でした。仲間がいたからこそ、続ける理由を見つけることができました。自分の経験からも仲間の存在の大切さを学んだので、皆さんにも仲間を作ってほしい!なので、ランナーズパルスのイベントでは一番の目的に「仲間づくり」を掲げています。クラブチームや走友会の枠を超えて、一人でも多くの仲間をつくってください。わたしもそのお手伝いをするべく、趣向を凝らした楽しい企画を考えていきます。ぜひ皆さんご参加ください!よろしくお願いします。

吉田香織

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