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市民ランナーの星、吉田香織が本格復帰!
さいたま国際マラソン特別インタビュー Part1

[2015/11/17]
Photos:Runners Pulse Interview:Miyuki Takahashi

第1回さいたま国際マラソンで、並みいる有名選手を抑えて準優勝、日本人1位に輝き、センセーショナルに本格復帰を果たした吉田香織。
女版、川内優輝の登場と世間が騒ぐ中、大会翌日にいつもと同じように出社した彼女にロングインタビューを行った。
辛い時期を経て、ランナー人生第2章をともに歩んできたランナーズパルスだけが知る彼女に迫る。

吉田香織

終盤に苦しいチェシャイアー選手を追い抜いて2位に。粘り強さを見せた

日本人トップになりたいと思っていました

— さいたま国際マラソン準優勝、そして日本人1位おめでとう! 大会が終わった日の夜は眠れましたか?

そうですね、よく眠れました。祝杯の美味しさとレース後の余韻をもう少し味わいたかったけれど、取材もあるし、少しは寝ておかないと……という感じで。15時からのランナーズパルス祝勝会から始まって、最後はコーチやいつも一緒に練習してきた仲間たちと深夜2時まで、11時間飲みました(笑)。

— さすがの体力ですね(笑)。さて、準優勝から1日経って、どんな気持ちですか?

意外とリラックスしています。ありがたいことに周りがとても盛り上がってくれているんですが、何となく自分だけ取り残されている感じで……。実感がまだあまりないんですよね。

— 結果に満足していますか?

5月のぎふ清流ハーフマラソンも日本人2位で、次の北海道マラソンも日本人2位だったから、日本人トップにはなりたいと思っていました。それが叶ったことは嬉しいです。それに、アップダウンの多いさいたま国際マラソンのタフなコースで自己ベストを出せたことには満足しています。でも、思ったよりも体調が良かったから、よりフラットなコースを選んでいればタイムを狙えたかもしれない……という気持ちもあります。まぁ、同じ条件、コンディションはないですからね、今回の選択が一番良かったのかもしれないし、それは誰にも分からないですよね。

— 最近の吉田さんはリラックスした様子に見えたんですが、実際、落ち着いてレースを迎えられましたか?

実は、夏以降、かなりプレッシャーを感じていました。調子がなかなか上がらない時期にはコーチに「もう出るのを辞めたい」って相談したこともあったんですよ。大会前日も、珍しく両親にLINEで不安な気持ちをぶつけたりして……。我ながら「いつもと違うな、わたし」と思いました。でも大会前夜に先輩から「周りの景色を楽しむ余裕くらいは持つように」ってメッセージが来て、ハッとしました。「もうちょっとリラックスしよう」って、その時に思えたのが良かったかもしれない。

— 体調は良かったのでは?

北海道マラソンの後、9月に疲労が出ちゃって走れなくなったんです。身体が重く、スピードが出なくて、練習メニューをこなすことができなかった。そんな時、ゲストランナーとして参加した大会で、子どもと一緒にスタートダッシュをしたら左足のシンスプリントをケガしちゃって……。疲労骨折はしてなかったんですけど、長年競技をやってきて、スタートラインに立つ難しさを知っているだけにナーバスになってしまったんですよね。11月に入って体調が回復してきたのを感じていましたが、大会前日まで不安は払拭できませんでした。だから、走ってみたら思ったより体調が良くてびっくりしましたよ。

— 人知れず、不安を抱えていたんですね。

そうですね。でも、実業団にいた頃のことを考えると、今はいろんな人と話をすることができる分、不安が薄れやすくなったなという気もします。

— かなり早い段階で、本格復帰するレースとしてさいたま国際マラソンに出場することを決めていましたよね? 

地元だし、開催されるって噂で聞いた時点で「絶対出る」って思ったんですよね。

— 直感ですね。

直感です。いつ、どんなコースで開催されるのかもよく分からないときに決めていました。全てを投げ打ってでも出たいと思いましたね。

吉田香織

早くから本格復帰の場と決めていた「さいたま国際マラソン」。審判のとき

— でも、リオデジャネイロ五輪代表選考レースでもある大事な大会ですよね? 1月に大阪国際女子マラソン、3月には名古屋ウィメンズマラソンと選考レースの中にはお馴染みの大会がある中で、第一回大会のさいたま国際マラソンを選ぶのは未知数ですし、リスクも多いと思うんですが……。

読めないですよね、確かに。それに、時期も難しいんですよ。夏ってそんなに長い距離を走れないから、秋口の11月に調子を合わせるのって大変なんです。さらに、コースの高低差図が発表されると、かなりアップダウンがあるタフなコースということも分かった。みんな避けるだろうなということはだいたい予測していました。でも、その未知な部分が面白そうだなと思っちゃったんですよね(笑)。

— レース中、どんなことを考えていましたか?

もともとペースメーカーの設定が17分(5km)とされていたので、「ちょっと早いなぁ」と思っていたんですが、実際走り出したら思いの外ゆっくりだったんです。17分20秒くらいで進んでいて、自分の中でもゆとりが出てレースを楽しむ余裕がありました。「ハーフポイントくらいまでは気持ち良くいけるかな」と思っていたけれど、中間地点を越えてもそこまで辛い状況ではなかった。そしたら意外と周りの選手がポロポロとこぼれていったので「あれ? わたしって調子がいいのかな?」と思ってきて、精神的にも上がり調子になっていきました。最後の折り返し地点である「神明町」のことはよく覚えています。たくさんの応援の人たちがいて、「駅からかなり遠い場所なのに、わざわざ応援に来ていただいてありがたいなぁ」と思いながら折り返しました。

— 25.5km地点では、まだ応援の人たちへの配慮をしていたんですね(笑)。

そうそう(笑)。暑さが苦手な人にとっては辛かったみたいですけれど、わたしは割と暑さには強いので、自分にとってはいいコンディションでしたね。

吉田香織

前半から積極的な走りを見せた(8km付近)