スタイリッシュに速く走りたい、すべてのランナーへ
SPECIAL

【On】オン、無重力ランニングの世界へ!

2018.03.13
Ayako Koike
Masahiro Minai

近年日本でも人気を集め、急激にファンを獲得しているOn(オン)。そんな現在要注目のブランドのヘッドクォーターは、スイス・チューリッヒにある。洗練されたルックスと独自の機能性を備えるシューズの数々は、どのような環境で生み出されているのか。その秘密を探るべく、編集長の南井正弘がスイスへと向かった。

チューリッヒの新興開発地区に位置するOnのヘッドクオーターは、明るく開放的な雰囲気。右は共同創業者の3名

 

Onを生んだ環境。

スイスにおいてもランニングは生涯スポーツとしてポピュラーとなっている。ここチューリッヒではオンロードはもちろん、少し足を伸ばせばオフロードでも走ることができるなど、ランニングを楽しむことのできる恵まれた環境にある。そんなチューリッヒのランニングコースとOnのオフィスの案内を、共同創業者の一人、キャスパー・コペッティに依頼した。

快く道案内を引き受けてくれた共同創業者の一人、キャスパー・コペッティ

Onのヘッドクォーターは、スイスのチューリッヒにある。チューリッヒは、スイス北部ドイツ語圏に位置するスイス第一の都市であり、人口は約39万人。チューリッヒ都市圏にまで拡大すると、200万人近い人が住んでいるという。スイス証券取引所を有するなど、ヨーロッパ有数の金融都市(ロンドンに次ぐ欧州2位)としても知られているが、トラックの幌をリサイクルしたバッグが日本でも人気のブランドFreitag(フライターグ)の本社もチューリッヒにある。Onの現在のヘッドクォーターは、チューリッヒの旧市街から見ると西側の新興開発地区に位置する。ビルのワンフロアを貸し切っており、オフィス内はオープンな雰囲気で、エントランスそばのキッチンではお昼時になると誰かが料理を始め、「たくさん作ったからあなたも食べない!?」といった感じなのが微笑ましい。

オフィスにはキッチンや男女別のシャワールームを完備

 

ランチタイムに走ってシャワーを浴びて仕事に戻る。

このエリアは新しいオフィスビルが立ち並び、歩道の幅も広く、ランニングにも最適な環境にある。Onのオフィスには男女別のシャワールームも完備しており、出勤ランや帰宅ランも可能。ランチタイムに走ってシャワーを浴びて仕事に戻るという社員を何人も発見できた。オフィスの周囲はオンロードだけでなく、少し走ればチューリッヒを代表する河川であるリマト川に到着。この川沿いが舗装されていない土の道で、足に優しく、筆者もリマト川沿いを走ったが、朝昼の時間帯はランニングを楽しむ人や犬の散歩をしている人々をみつけることができる。

さらにこのエリアから3kmほど走ると、旧市街のオペラハウスのあるチューリッヒ湖畔に到着。このチューリッヒ湖畔でもランニングを楽しんでいる人がチラホラ。反対に旧市街の街中は人通りが多く、歩道も狭いので走るのは難しい。ニューヨークや東京のような本当の意味での街ランは、ここチューリッヒでは難しいかもしれない。そしてOnの本社があるからかもしれないが、この街でのOnの着用率は、ランナーはもちろん、カジュアルユーザーもかなり多かった。

周囲にはリマト川やチューリッヒ湖などランニングに最適な環境が揃う

 

 

Onの誕生。

世界的なトライアスリートであったオリヴィエ・ベルンハルドが、自らのケガをキッカケに開発をスタートさせたOn。オリヴィエ自らブランドを立ち上げようと思った当時の気持ち、そしてプロダクト開発に対する熱い気持ちを語る。

Olivier Bernhard
Co-Founder

Onの誕生は、デュアスロンの世界チャンピオンに数回輝き、トライアスロンでもアイアンマンレースで6回優勝したプロアスリートのオリヴィエ・ベルンハルドが、現役時代にアキレス腱炎に悩まされたことがきっかけのひとつである。彼はアキレス腱が痛くならないランニングシューズを作るため、庭に水を撒くホースを輪切りにし、のちに同社の根幹を成すことになるテクノロジーの「クラウドテック」のプロトタイプを作ったという。2005年からスタートしたこのプロジェクトは、2010年1月に会社が設立され、最初のシューズが完成した。これはスポーツシューズ業界関係者やOnのヘビーユーザーなら知っている人も多い有名なストーリーだ。しかしながら今回チューリッヒにあるOnのヘッドクォーターを訪れ、オリヴィエに直接インタビューするといくつかの新事実が明らかになった。

「確かに自分のアキレス腱炎が新しいシューズを作ろうと思った理由のひとつです。しかしながら、Onを作ろうと思ったのはそのことだけが理由ではありません。自分は常々『走ることによって、足だけでなくカラダ全体と会話ができるようなランニングシューズが欲しい!』と思っていて、市場にはそのようなプロダクトは存在していなかったので、『無かったら自分で作ってしまえ!』と決断したのです。あとは当時市場で大勢を占めていたのは、アッパーもソールユニットもゴテゴテとしたデザインのランニングシューズばかり。自分が欲しかったデザインのランニングシューズはクリーン&シンプル。それでいて機能性はしっかりと確保しているというタイプでしたね。その当時デザインに関しても自分好みのプロダクトは無かったです。ただこのとき考えていたのは、シューズを開発するというよりも、先ほど述べたように『走ることによってカラダ全体と会話ができるような感覚』、すなわち独自のランニングセンセーションで、そのランニングシューズを履いて走ることで、他のランニングシューズを履いて走ったときとは全く違った新しい感覚をランナーに与えたいと思ったのです。よってOnのシューズは、ただ単に衝撃から足を保護する以上のことを、ランナーに提供することを目指しているのです」とオリヴィエは語る。

クラウドテックのプロトタイプ

彼のこのコメントを聞いて、これまで個人的に疑問に思っていたことが解決した。Onのシューズの着地感はその見た目とは違ってかなり自然で、同時にそれとは対照的な反発性もランナーに提供してくれる。そしてこの着地感と反発性の感じ方が体調の良い時と悪い時で明らかに違うのである。他のブランドのシューズの場合はOnほどの違いはない。自分はOnの、特にクラウドサーファーをランの調子を測定するツールのように思っていたのだが、オリヴィエの言葉を借りれば、これが走ることによってカラダと会話するということなのだろう。最後に「これからも『なぜ?』という子供のような気持ちを忘れずにプロダクトを作っていきたい!」という彼の言葉が印象的だった。

 

 

Onの素晴らしさを伝える。

デイビッド・アレマンはOnの共同創業者のひとりであり、現在はOnのマーケティングの責任者となっている。創業以来Onが行ってきた独自のマーケティング手法に関して聞いた。

David Allemann
Co-Founder

Onの共同創業者であるデイビッド・アレマンは、現在Onのマーケティング責任者である。Onといえばプロダクトも独創的だが、広告ビジュアルや店頭プロモーションといったマーケティング活動も他ブランドとは一味違う気がする。個人的には世界中の都市の主要店舗に設置される、共通デザインのマジック・ウォールはとても印象的だ。デイビッドはOnがスタートした頃からのいろいろな出来事を思い出しながら話を聞かせてくれた。

はじめてOnのシューズを見たランナーも、小売店の関係者も驚いていましたね。特にアウトソールの形状が従来のランニングシューズとあまりにも違いましたから。『ギミックだ、機能するわけない!』という声もありましたが、実際に履くとほとんどの人が第一印象から考えを変えました。一度履けば『WOW!』といった感じで、Onのファンになってくれましたね。Onが急速に成長した最も大きな理由は、その独特な履き心地だと思います。それだけに、とにかく履いてもらうことがOnを理解してもらう近道だと確信してマーケティング活動を行ってきました。

Onが登場するまでのスポーツシューズ業界は、20〜30年の間ずっと素材開発競争だった気がしますが、Onは素材ではなくエンジニアリング、すなわち自転車業界や自動車業界のような工学技術で勝負したわけで、スイスエンジニアリングでランニングシューズのクッションの常識を変えました。それとOnはデザインとエンジニアリングの両方をケアしていて、機能性を巧みにデザインに溶け込ませています。スポーツシューズ業界はマーケティング活動をし過ぎている傾向にありますが、我々はフォローしません。

先程も言いましたが、履いてもらうことがOnにとっての最も重要なアプローチです。一人が履けば『このシューズはイイよ!』といった感じで、凄い勢いでOnの機能性の高さが口コミで広がっていくのです」と語る。まさに「履けばわかるさ!」というのがOnのマーケティングの基本のようだ。

 

 

Onの飛躍的な成長。

Onの共同創業者のひとりであるキャスパー・コペッティ。創業からOnが快進撃を続けるにあたって、彼が多大なる貢献をしたのは業界では有名な話だ。そんな彼にOnをさらに飛躍させるための戦略を語ってもらった。

Caspar Coppetti
Co-Founder

共同創業者の一人で営業の責任者を務めるキャスパー・コペッティ。若いころはジャーナリストとして世界中を飛び回っていた彼は、現在は営業担当のエグゼクティブとして世界各国のセールスをサポートすべく、キーとなるマーケットを頻繁に訪れている。そんな彼にOnの営業戦略を聞く。

「これまでOnが成長してきた原動力は、なんといっても機能性に優れたプロダクトによる独自の履き心地だと思いますね。あとはチームワーク。特に日本のチームはユーザーとのコミュニケーションも密接だし、とても上手くいっていると思いますよ。それと最も重要な営業活動はとにかく履いてもらうこと。お店のスタッフのサイズを聞いて、一度でも彼らにシューズに足を入れてもらえば『自分の店でも売ってみたい!』と思えるシューズだと思いますよ。

プレミアム価格帯のシェアではスイスで1位、オーストリアでも2位、ドイツで4位のシェアをすでに獲得していますが、近い将来の営業面での目標は、札幌でもフィリピンでもノルウェーでも、世界中の主要なスポーツショップにおいて、ランニングシューズを探しに来た消費者に最初に選ばれ、薦められるプレミアムプライスのブランドがOnになればいいなぁと思っています。

ちなみに走るのに最も重要な筋肉は何だと思いますか? 大臀筋や大腿筋ですか? いいえ違います。確かにそれらの脚部の筋肉もランニングにとって重要だと思いますが、私たちは最も重要なのは笑顔をつくる表情筋だと思っています。走ることが楽しいと思えることが一番大切であり、いつでもOnは楽しさをシューズに乗せてランナーに届けるブランドでありたいと思っています」。

「とにかくまず履いてもらうこと!」とキャスパーとデイビッドのコメントが全く一緒だったことには驚いたが、これは上手くいっている会社の証明。マーケティングとセールスが同じ方向を向いて仕事している証拠で、こういった会社は意外と少ないのである。

 

 

Onの素晴らしさとは。

ワールドワイドで急成長を続けるOnだが、もちろん地元チューリッヒでも高い評価を得ることに成功している。チューリッヒ随一の百貨店のOnコーナーで働くパスカル・アーンに、このブランドの素晴らしさを語ってもらった。

Pascale Arn
Sales Representative

アメリカや日本では百貨店がかつての輝きを失っていることは否めないが、ここチューリッヒでは小売業における百貨店の地位はまだまだ高い。それが証拠に、チューリッヒ旧市街には百貨店がいくつもひしめき合っているエリアがある。そのなかでも最も販売力があると言われているのがJelmoli(イェルモリ)である。チューリッヒ屈指の目抜き通りであるバーンホフ通りに店を構える1833年創業のこの老舗デパート、そのワンフロアがスポーツフロアとなっているが、ここにはナイキ、アディダス、アシックスといったブランドと並びOnが大きなブランドショップを展開している。

チューリッヒの老舗百貨店イェルモリには、Onが存在感たっぷりにブランドショップを構える

このショップとOnのオフィスの両方でSales Representativeとして働くパスカル・アーンは、「Onというブランドの強みはなんといってもクラウドテックですね。このテクノロジーの履き心地のよさは本当に凄いと思います。あとテクノロジーを強調しすぎていないところがいいと思います。クラウドテックがシューズのデザインに上手く組み込まれていますよね。Onで一番売れているシューズはウイメンズのクラウドで、アパレルではコンフォートTです。コンフォートTは自分自身も毎日のように着ていますが、本当に着心地がいいです。Onのシューズだと新しいクラウドフライヤーが好きです。正直言うと前のクラウドフライヤーはそうでもなかったのですが、モデルチェンジしてから大好きになったんです。

実はイェルモリのこのスポーツ用品のフロアで、面積効率でいうと数あるライバルブランドを抑えてOnの売り上げがNo.1なんですよ! 週に140足くらいOnのシューズが売れます。1ヶ月じゃなくて1週間ですよ! 新しいクラウドは本当に機能性が向上していると思いますし、クラウドXはフィットネスアクティビティにも対応するサイドサポート性がプラスされていていいと思います」とコメント。Onのチームの一員であることを誇りに思っていることが、彼女の言葉と表情から読み取ることができた。

 

 

日本におけるOn。

これまでに数々のランニングシューズを履いてきた、ギアに関しては一家言あるランナーからも評価が高いOn。日本での展開スタート以来、ユーザー目線でのグラスルーツマーケティングを地道に行ってきたことが、日本においても高い評価を得ることができた大きな理由だ。そんな日本におけるOnの活動を、日本での展開スタートから携わってきたSales & Marketing Director の駒田博紀に聞いた。

Hiroki Komada
On Japan Sales & Marketing Director

「On Japanは2015年にスタートしましたが、その時からずっと継続して心掛けてきたのは、ブランドのミッションである『ランニングを楽しくする』を日本のランナーに明確に伝えるということですね。キャスパーも言っていたみたいですが、走っているときの笑顔は大切ですよね。そのために私たちが行った手法が、ユーザーのコミュニティと密接に付き合っていくということ。東京マラソンエキスポや宮古島トライアスロン、アイアンマン、全国の販売店で行われる試履きイベントといった場所で数多くのユーザーと知り合い、親交を深めていきました。

さらにユーザーとの触れ合いをフェイスブックなどのSNSにも公開することで、Onというブランドが大好きな人のコミュニティはどんどん大きくなってきていると思います。こういった活動は日本以外の他の国でも行っているようですが、ここまでOnの社員がエンドユーザーと密接に繋がっている国はありません。こういった活動では日本は世界でもトップクラスのようです。さらには各地のマラソン大会でエンドユーザー同士が『あっ、Onのシューズ履いていますね!?』といった感じで声を掛け合うということも珍しくないようですが、ほかのブランドでこういった話はあまり聞かないですよね?」

グラスルーツでエンドユーザーと密接に繋がる。地道なマーケティングが今のOnを作り出した

「あと私たちOnは、カスタマーサービスのことをハピネスデリバリー(幸せを届ける)と呼んでいますが、もしかしたらこの部署はOnにとって最も重要な部署かもしれません。それは、この部署がユーザーにシューズを通じて『走ることの楽しさ』を伝えているからです。そういった意味では会社の根幹といっても過言ではないかもしれません。

On Japanとしての中期目標は、プレミアム価格市場で10%のシェアを獲得することですが、これはすでに射程圏内です。そして長期目標は、2020年までにプレミアム価格市場におけるNo.3のブランドになることで、これはチャレンジングですが、決して不可能ではないと思っています。」

抜群のチームワークで2020年までにプレミアム価格市場におけるNo.3を目指す。決して実現不可能ではない

 

INFORMATION
オン・ジャパン
045-264-9440
www.on-running.com/ja-jp

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